第七章 破られた時間
第13話 1/2/3 「私も…」 ライが遠くに見える山の裾に視線を投げて口を開けた。 「私も小さい頃に母を亡くしたよ。ある悪い人が母を私から奪っていったのに、私はあまりにも幼くて母を守ることができなかったの。すごく悲しくて、腹が立って、母と一緒に住んでいた村を離れた。 遠い北の地から新しい生活を始める事になって、母を殺したあの悪い人に復讐するために強くなろうと必死だった。死にそうになるたびに、母の悲しい顔を思い出しながら生き残ることだけを考えたよ。もう、時間が経って母の声や顔もよく思い出せないけど、母が死んだ時と気持ちは少しも変わってない」 ガルラシオンとライの視線がぶつかった。少しおびえた顔でガルラシオンが聞いた。 「まだその悪い人に復讐したいですか?」 ライは静かにうなずいた。子供と何を話しているのか、という気がして会話を止めようとしたけれど、なんだかこの子は自分の気持ちを分かってくれる気がした。 「私が家族の命を奪っていった病魔を嫌うように、あなたがその悪い人を憎むのも理解できます。だけど…」 少し戸惑ったガルラシオンは悲しい口調で言いつづけた。 「あなたがその悪い人に復讐すると、あなたのお母さんが悲しみそうです…」 言い終えたガルラシオンの声には涙が混ざっていた。ライは慌ててガルラシオンを見つめた。涙ぐんでいるライの目から涙がぽろりと落ちた。ライは自分も知らないうちにガルラシオンの涙を拭いていた。 「そんなことは考えたことないから分からないけれど…もう一度よく考えてみるよ」 気を落ち着けて、ガルラシオンの顔から手を放したライが立ち上がって自分の復讐に対する会話を終わらせようと話題を変えた。 「それより私はこれからどこで過ごせばいいのか少し考えてみるわ。私、帰る場所がなくなったから」 「そうしたら私の護衛役になってはいただけませんか?」 もう一つの声に振り向いてみると、フロイオンが木にもたれて空を見上げていた。ライは自分の聞き間違えと思って黙っていた。フロイオンが空からライの顔へと視線を移しながら言った。 「なんで返事がないんですか?帰る場所がないなら私の護衛役になるのも悪くはないでしょう。あなたもご存知の通り、私はイグニスの貴族です。報酬はあなたが暗殺依頼でもらった金額よりずっと多く払えますよ。どうですか?」 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |