第八章 夢へと繋がる鍵
第10話 1/2/3 グレイアム・ベルゼン伯爵は鋭い牙を剥き出したワーウルフが近づいてくることに気付いた。 グレイアムはワーウルフに向かって剣を振るった。 ワーウルフは素早く体を避けたが、腕を斬られ赤い血が流れた。 腕から流れる血を見たワーウルフはもっと興奮したように、両手で攻撃してきた。 ワーウルフの爪と剣がぶつかる音がし、グレイアムはワーウルフの攻撃を防いだ。 シュタウペン伯爵は絶望的な声をあげながら、ワーウルフに叫んだ。 「人を傷つけてはいけない!早く逃げろ!」 しかし、グレイアムに殺気を出しているワーウルフにはもう聞こえない様子だった。 もう一度ワーウルフはグレイアム伯爵に向けて手を振るい、グレイアムの青いシャツから赤い血の線が三つ現れた。 グレイアム伯爵は気にしない様子で、剣を改めて握り、ワーウルフを攻撃した。 いつの間にか城内には彼らが戦っている音しか聞こえなくなっていた。 彼らの戦いには誰も割って入ろうとしなかった。 ワーウルフが自分にかかってくるグレイアムの剣を両手で握った。 グレイアムの危機に気付いた警備兵が槍を握って近づきはじめた瞬間、グレイアムは腰に差していた短剣を抜き、ワーウルフの脇に刺した。 ワーウルフの足元がふらふら揺れ始め、やがて倒れてしまった。 自分に向かって倒れるワーウルフを避けて後ずさりをするグレイアムの顔にも血が滲んでいた。 周りの人はみんな驚いたが、グレイアム本人は落ち着いていた。グレイアムの足元に倒れたワーウルフはぼろぼろになった服を着ている人の姿になった。 シュタウペン伯爵は本来の姿に戻った息子の死体を見て泣いていた。 エドウィンは考え事をしていた。 息子を守るために全てを捨てた父親の願いは叶わず、息子は父親の目の前で死を迎えた。親にとって自分の息子の死を目撃する事に勝る悲劇はないだろう。 息子の名前を叫びながら泣いているシュタウペン伯爵の姿を見ていたエドウィンは まるで自分のことのように感じられ、胸が痛くて耐えられない気分になっていた。 先まで感じていた世の中の不条理に対する失望と怒りが解けてしまうような気がした。 しかし、兵士たちに火刑式を続けるように命令するグレイアムの声が聞こえた瞬間、 エドウィンは自分自身が気づかないうちにグレイアムを殴ってしまった。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |