第八章 夢へと繋がる鍵
第2話 1/2 「顔色が悪いです」 キッシュの顔を見ていたハエムが声をかけた。 「変な夢をみました」 「どんな夢でした。教えてくださいますか?」 キッシュは少し迷ったが、微笑みながら首を横に振った。 「申し訳ございませんが、他人に助言を求めるほどの夢ではないと思います。ただ、試合のことが気になって疲れていたのだと思います」 「そうことでしたら…しかしキッシュ様、夢は単に夢で終わらない場合もあります。 いろんなものが含まれています。どんな夢であってもその意味を軽く思ってはいけないと思います」 「分かりました」 キッシュはハエムの言葉を受け止め、昨夜の夢を再度思い出してみた。夢と呼ぶにはあまりにも生々しいものだったが、夢の中だと自覚していた。 夢の中でキッシュは10名そこそこの人々と立っていた。 彼の顔は光の霧に囲まれているようにぼやっとしていてはっきりとは区別できなかった。覚えているのは、彼らが違う種族であること、みんな同じ方向を見ていたこと、 疲れきって辛そうだったが笑顔だったことだけ。お互いを信頼し合っている人々にのみ見せることができる暖かい微笑だった。 夢の中で一人が一歩を踏み出すとみんなが従い歩き始めた。手には血まみれになった武器を握っていた。しかしその武器は汚れて残酷な殺傷道具には見えなかった。なぜか聖なる静かな力が感じられた。 彼らが立ち向かっている方向から目には見えない巨大な衝撃が襲いかかり、誰かが姿を消してしまった。しかし立ち止まる人も悲鳴をあげる人もいなかった。逆に彼らの足は速くなり、もっと力が入った。 今度は燃える火の玉が転がってきた。また誰かが炎と一緒に消えていったが、人々の足元に迷いはなかった。 我々に託された貴方たちの生命を絶対に無駄にはしないから。貴方たちの魂が笑えるように最後まで頑張るから。 いつかまた会える日が来るまで見守ってくれ… ささやいているような切ない声がかすかに聞こえる中、目が覚めた。どこかで聞いた事がありそうな、懐かしい声だったけど、思い出せない。 本当に変な夢だったと思いながら顔を上げて正面を向くと、大きな湖の上に作られた屋根の下に試合の監督官とドビアン、そして大長老が座ったまま、自分が来るのを待っていた。 キッシュと視線が合ったドビアンは驚いたようだったが、すぐ目をそらした。 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |