第八章 夢へと繋がる鍵

第5話 1/2/3

数十回繰り返して読んでも息子が何を考えていたのか、何処へ向かっているのか何も分からない。
ベルナス・ベニチという息子が実在していた人物かどうか自信が持てなくなるくらい、
息子について何も知らなかったのである。
人に頼んで息子の行方を捜してみたが、1ヶ月が経っても手がかりはみつからなかった。
昼間のロザリオは忙しく業務をこなしていたが、
夜になると息子の部屋に入って息子が残したものを見ながら息子のことを考えていた。
息子が読んだ本や書いた詩を読んでいるうちに、大人になったベルナスは自分が覚えている金髪で好奇心の強かった緑色の目の少年とは違うことが分かった。
今のベルナスは孤独で狂信的な人間になっていたようだ。
子供の頃には神殿に行くことをあれほど嫌がっていたのに、神に夢中になったのはもしかして無関心な自分のせいではないかと思われた。

‘ベルナスはこんな子ではなかった。ベルナスは神殿でお祈りをするより、木登りが好きで、何気ないことにも大きな声で笑う子だった。
森の中で傷ついた動物を見つけると、治るまで面倒を見るやさしい子だった。
妻が死んだ時も俺が心配するのを気にして、何も悲しくないふりをする子だったのに…
いつの間にかこんなに変わってしまったのか…?’

ロザリオは毎日息子の手がかりがつかめるよう神に祈った。息子が無事に帰ってきたら、残りの人生は全部息子のために使うと誓った。
ある日、カイノンでベルナスを見たという噂が届いた。

「カイノン?」

ロザリオの声が大きくなった。


・次の節に進む
・次の話に進む
・次の章に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る