第八章 夢へと繋がる鍵
第9話 1/2/3 カイノンで過す夜は香ばしい草の香りで満ちている。 カイノンの周りには木が多く、夏の草の匂いは気持ちいいものである。 しかし、ジャイアントは草の匂いより土の匂いに慣れ親しんでいる。冬に降りて硬く凍っていた雪が解けると、潤う土の匂いに満ちてゆく。寒い冬の間、固くなっていた体をやわらかくしてくれて、心にも余裕が出来る。ナトゥーは草の匂いには慣れない気がした。 今でも目を閉じると果てのない大地が目の前に広まり 厳しい風の音が耳元に吹いてくるような気がした。 「帰りたいのか…」 一人で笑っていたナトゥーはエレナというハーフリングが思い出された。エレナは10年以上カイノンで過したそうだった。ハーフリングとハーフエルフの地域環境が似ていたとしてもそんなに長く滞在すると故郷に帰りたくならないのか聞いたら、エレナは微笑みながら答えてくれた。 「人が住む場所はどこでも同じでしょう。 何の不安もなく平気というのは嘘ですけど、まだ頑張ることが出来たのは、カイノンの人たちと馬が合ったからです。 種族に関係なく、心と心が合うことには、何の差し支えもないでしょう」 ナトゥーはハーフリングの明るい性格が合わなかった。 ジャイアントに比べて、ハーフリングは明るくて朗らか過ぎる。 ナトゥーにとってハーフリング達は怖いもの知らずで、楽観的だと思われる。 エレナはハーフリングたちが全てのものと共存するために努力するためだと説明した。 ‘心と心がつながる…ダークエルフとジャイアントでも出来るかな’ ダークエルフとジャイアントみたいに極端に違う種族はない。 ジャイアントを反対にするとダークエルフになるといえるくらい、全ての面から違う。 ナトゥーはエレナの話のように、共存するために努力をしてもジャイアントとダークエルフがつながることは決してないと思った。 ‘しかし、なぜ俺はフロイオン・アルコンのことを気にするんだ?’ 考えてみれば、フロイオンはナトゥーが持っていたダークエルフのイメージとは違った。 ジャイアントを軽蔑する視線で見たこともなく、うそをついたこともない。 本音で話し合えるくらい親しくなったわけではないが、フロイオンとは本当に話が通じたと思う。 これから先、フロイオンと自分が友達になれるかは分からないが、今は彼が無事でいることを願っている。 国家のためにも、自分のためにもフロイオンが無事でいる事を確認したい。 エレナはナトゥーが書いた手紙をフロイオンに渡し、カイノンに来るように伝えてくれるといった。 エレナの話が事実だとしたら、フロイオンはハーフリングの街で監禁されているわけではなく、何らかの理由でそこに滞在しているのだ。 「ハーフリングがダークエルフを監禁する理由がないか…」 ジャイアントとダークエルフの秘密契約をハーフリングたちが気付いたというのは 自分の考えすぎかもしれないと初めて思うようになった。 ‘ヒューマンの聖騎士の足あとが残っていたのは偶然にすぎないのか?’ ナトゥーは自分が確認した聖騎士の足あとが気になった。 聖騎士の足あとが残っていた事はただの偶然とは思えない。全てはフロイオンに直接聞くべきだ。ナトゥーは一日でも早くフロイオンがカイノンに着くことを願った。 しかし、世の中は自分の思った通りには動かない。 ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の話に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |