第八章 夢へと繋がる鍵

第3話 1/2/3/4

エドウィンは思い込んでいるようで、父親が複雑な表情で自分を見ていることに気がつかなかった。

‘誰だってシュタウフェン伯爵の立場になると同じことをするはずなのに…
どうして、息子の命を救おうとする父親が処刑されなければならないのか?’

エドウィンの頭の中はますます混乱していた。家族への愛を大切にしながら、父親が処罰を受ける世界。
真実が全てといいながらも、嘘の影で真実を隠している世界。
世の中は矛盾している。二重の基準を持っているんだ。
今まで高貴なものだと教わったことは本当に高貴なものなのか?世に対する落胆と怒りで胸が苦しくなる。

グレイアムはシュタウフェン伯爵の火刑を始めるように命令した。シュタウフェン伯爵は兵士達に支えられながら、火刑場の最上段に上がった。
鎖で縛られていた伯爵の両手が十字架に縛られる場面を見ていたエドウィンは見てはいられずに下を向いた。自分の行動に罪悪感を覚えたのだ。

「モンスターだ!」

警備兵の叫びに顔を上げてみると、十字架に縛られたシュタウフェン伯爵の前にワーウルフが一匹現れていた。鋭い牙を剥き出しにして叫んでいたのだ。シュタウフェン伯爵を警備していた兵はワーウルフの前足に殴られて地面に転がっていた。
何人かの警備兵がワーウルフに近づこうとしたが、なかなか出来ない。ワーウルフはシュタウフェン伯爵を守るかのように、誰かが少しでも近づいたら吠えながら攻撃してきた。エドウィンはワーウルフがシュタウフェン伯爵の息子だと分かった。モンスターになっても自分の父親を守ろうとする姿に目頭が熱くなった。

「どうして…帰ったのだ…」

シュタウフェン伯爵は絶望的につぶやいた。その声が聞こえたのか、ワーウルフが伯爵の方を振り向いた。シュタウフェン伯爵にはワーウルフの目に涙が浮かんでいるのが分かった。しかし涙が流れてくるのはシュタウフェン伯爵の目からだった。

人々はシュタウフェン伯爵の前に現れたワーウルフがモンスターになった彼の息子だと分かった。兵士達はワーウルフを攻撃できずに迷っていた。皆が円になって静かにワーウルフと伯爵を見つめている中、一人が前に出た。
ワーウルフに向かい、躊躇なく足を運ぶグレイアムの手には大きな剣が握られていた。


・次の話に進む
・次の章に進む
・前の節に戻る
・前の話に戻る
・前の章に戻る
・目次へ戻る