第九章 運命の渦巻
第1話 1/2/3 後継者になったという話を聞いてから少しずつドビアンの様子がおかしくなった。 自分がドラゴンの末裔ということに彼の自負は高いものだったが、口喧嘩までした事はなかった。 キッシュは最近の旅で心境が変わって、他の種族と連合することを提案したのが 気に入らないのは分かるが、あんなに大きく怒る人ではなかった。 自分が変わったことにより、大きく変わっている友達をみて驚いた。 ドビアンが知らない人になったようで寂しさも感じた。 ‘まるで悪魔にさらわれたように変わった…ドビアンが変わったのは理由があるはずだ。’ 背中から綺麗な歌声が聞こえてくると思ったら、いきなり風のように鋭いものが横を走って消えた。 キッシュは体を避けながら、後ろをみた。色気のある声で歌を歌っていたのはサキュバスだった。 派手に飾ったサキュバスが赤色に帯びた黒い羽でキッシュに向かって近づいてきた。 鋼鉄のように鋭い爪で音を立てながら、人を誘うように綺麗な歩き方をしていた。 ‘夢の中の悪女’とも呼ばれるサキュバスは、男の人の生命力を吸い取り、命を奪う。 サキュバスの歌声と視線にさらわれた瞬間、深い眠りに落ち、そのままサキュバスに生命力を奪われやがては死んでしまうのだ。痛さはないが、戦いにくい綺麗な悪魔は、恐ろしい存在である。 キッシュはサキュバスの目をみないように注意しながら、両手の武器を振るった。 キッシュが攻撃し始めると、サキュバスの歌声が止まった。 大きな羽で空中に飛んだサキュバスは、キッシュに向かって鋭く硬い爪を振るった。 相手の顔を見ないようにしながら、戦うのは至難の業だ。 サキュバスの羽が床に落ちるのと同じくらいにキッシュの体にも傷が増えた。 キッシュは歯を食いしばり、大きく剣を振り回した。 青く光るキッシュの剣は、サキュバスの体を半分にした。 サキュバスは悲鳴をあげながら灰になってしまった。 キッシュも力をなくし、倒れるように座り込んだ。 一方ドビアンは目の前にある小さいガラスの箱を見ていた。紫色の霧が中を覆っていた。 「これが本当に‘千の顔’と呼ばれるアバドンですか?」 ・次の節に進む ・次の話に進む ・次の章に進む ・前の節に戻る ・前の章に戻る ・目次へ戻る |