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第七章 破られた時間 第11話 09.10.07

 



エレナが「ゼロス」を作る為に必要な材料リストをコヘンに渡してから3日後、

自分の倉庫に山積みされている材料を確認して、コヘンの仕事の大変さが分かった。

自分のお爺さんは材料を集めるまで1年近くかかったのだ。

それを3日で準備したのだ。

早速、エレナは‘ゼロス’を製作し始め、ゾナトの結婚式の前日、

ようやく‘ゼロス’は完成した。

しかし‘ゼロス’を見たゾナトは少し疑うようにエレナに聞いた。

 

「これが魔法を弱化させる鎧‘ゼロス’ですか?」

 

エレナは微笑みながら頷いた。

ゾナトがそんな疑問を持つのも当たり前だと思っていたからだ。

‘ゼロス’は魔法を弱化させる鎧と呼ばれるが、見た目では鎧というより

シルクで製作されたマントに近いものであった。

ゾナト・ロタースが慌てた表情で‘ゼロス’とエレナを繰り返してみていた。

その時、カエールがエレナの作業室へ入ってきた。

 

「エレナ、お客さんが…。お!完成しましたか!」

 

エレナを訪ねてきたカエールはゾナト・ロタースが手に持っていた‘ゼロス’を見つけて

歓声を上げた。

 

「これが、話していた魔法を弱化させる鎧?」

 

いまだに信じられない表情のゾナトがカエールに聞いた。

カエールは頷きながら答えた。

 

「はい、見た目では鎧と言えないですが…」

 

ゾナトはようやく安心した表情になった。

カエールも‘ゼロス’をしばらくは観察していたが、やっと訪問した目的を思い出した。

 

「カイノンの東入口にジャイアントが一人来ています。エレナさんに会いたいそうです」

 

「私に?」

 

ジャイアントの人が自分を訪ねたっていうことでびっくりしたようだった。

ゾナトも緊張を隠せずにカエールに聞いた。

 

「ジャイアントの人がなぜエレナに会いたがっている?どんな人だった?」

 

「雰囲気では戦士のようでしたが、かなり長い旅をしたのか相当疲れた様子でした。

エレナさんがここにいることをベロベロというハーフリングの人から聞いたそうです」

 

「!!どこですか!どこにいますか?」

 

ベロベロという名前を聞いた途端、エレナの顔色が変わって聞き詰めた。

ゾナト・ロタースはカエールにジャイアントの人をここまで案内するように言った。

カエールが部屋を出た後もエレナは落ち着かない様子だった。

ゾナトは理由を聞いた。

 

「ベロベロは眉毛ミミズク長老です。また私のお爺さんでもあります。

だいぶ前にイグニスへ旅立ってから連絡がありませんでした。

ダークエルフの警備兵たちが森の中で彼の遺品を見つけてそうですが、私は信じられなくて…

葬式までしてしまったので、もう忘れたほうがいいとか言われましたが、

私は彼がどこかで生きているとずっと信じていました

 

もう少しでベロベロに会ったというジャイアントの人が着くからと言って、

ゾナトはエレナに落ち着くようにといったが、不安な気分を隠せなかった。

エレナは耐えられなくなって外に飛び出そうとした時、

カエールがジャイアント一人と一緒に入ってきた。

カエールが言った通り、ジャイアントは戦士のようで、かなり疲れた様子だった。

カエールはゾナト・ロタースの隣へ行きながら話をした。

 

「先ほど言った通り、預かった武器はカイノンから離れるとき返します」

 

ジャイアントの人は少し気に障ったような表情だったが、うなずいた。

いらいらしているエレナを見つけて、肩に隠していた何かを引き出した。

 

「あなたがエレナさんですね。

僕はジャイアント王国ドラットのナトゥと申します。

イグニスでベロベロというハーフリングと出会いましたが、

彼から貴方に渡して欲しいと託されたものがあります」

 

ナトゥが渡した巻物をもらったエレナは、巻物を読む勇気がなさそうにじっと見ているだけだった。

当分の間見続けていたがエレナはナトゥに振るえながら聞いた。

 

「彼は…ベロベロ爺さんは…どうなりましたか?」

 

「亡くなりました…」

 

ナトゥの回答を聞いたエレナは何も答えずに倒れるように椅子に腰をかけた。

ゾナトやカエールに2人きりにして欲しいと合図をした。

ゾナトとカエールは手紙の内容が気になったが、

一瞬で体に全ての力を失ったように椅子に座っているエレナと

気まずそうに立っているナトゥを後にして2人は外に出た。

何の動きもなく下向いていたエレナが静かに顔を上げ、ナトゥに聞いた。

 

「なぜ亡くなりました?遺体はどこに…?」

 

「僕が最後に彼を見たのは黒い兜をかぶったダークエルフの兵士に連れられて、

地下監獄から離れる姿でした。」

 

「死の伝達者…」

 

エレナは辛そうにうめき声をだした。

しばらくの間、目を閉じて眉間にしわを寄せていたがが、深く深呼吸をした後目を開き

ナトゥからもらった巻物を開いて読み始めた。

書いてある文章を読んだエレナは何もいわず、窓を開けた。

そして、首にかけていた木の笛を思いっきり吹いた。夜空がった

 

しばらくの間、笛を吹き続けたが、何かを見つけたように窓の外側に手を伸ばした。

遠くに見える点のようなシルエットが動き始めフクロウになった。

白い眉毛の灰色のフクロウは静かに飛んできてエレナの手の甲にとまった。

エレナは手の甲に灰色のフクロウを乗せまま、机につれてきて小さいとまり木の上にとまらせた。

灰色のフクロウの羽辺りを探るようにしたら、ナトゥが渡した巻物より大きいものが出た。

ナトゥはあれを見てやっと自分が渡した巻物にフクロウを呼び出すように書いてあったことが分かった。

エレナはフクロウの羽から引き出した絵巻を読み始めた。

小さい文字で内容が書いてあった。巻物を読んでいるエレナの瞳が左右に動いた。

どんどんエレナの表情が硬くなった。

 

なんて書いてあるんだ?

 

エレナは何回も何回も繰り返して呼んだ。10回くらい読んだ後、

やっと巻物から目を外して窓の外を眺めた。

 

「なんと書いてありますか?」

 

ナトゥの質問にびっくりしたように答えた。

 

「何でもありません。ただ…遺言が書いてあります」

 

少しどもりながら答えるエレナがおかしいと思ったが、突っ込み出来る立場ではないので、

何も言わなかった。二人の間に緊張と沈黙が走った。

 

「一つお願いがあります」

 

沈黙を破って口を開いたのはナトゥの方だった。

 

「何でしょうか…?」

 

「プリアにはダークエルフが一人いると思います。彼に私の手紙届けてください。」

 

「プリアにダークエルフがいることはどうして知っているんですか?」

 

エレナの鋭い質問にナトゥは偶然情報が入ったと言葉を濁した。

しばらくナトゥを見ていたが、エレナは伝えると答えた。

ナトゥはエレナから紙一枚とペンを借りて迷いながらも簡単に内容を書いた。

 

フロイオンアルコン卿へ。この手紙をお読みになりましたら、即時カイノンに向かってください。

何があってもイグニスに戻ってはいけません。ナトゥから

 

 

第7章12話もお楽しみに!
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