HOME > コミュニティ > 小説
第八章 夢へと繋がる鍵 第13話 10.02.10


周りは聖なる光に囲まれていて、立っている人の影が床に長く模様を作っている。

顔を上げて人々の顔を見ようとしたが、まぶしくて見えない。

人数は影を数えると10名程度だが、種族も全部違うようだった。

ヒューマンもエルフもいるようだ。見たことの無い種族もいた。

憎悪や敵対心は感じられなく、お互いに信じあっていることが分かった。

 

ありがとう…

 

誰かの声が聞こえてきた。自分が微笑んでいることが分かった。

 

「カエール!アリエ!大変だ!カエール!」

 

急に目が覚めた。窓の外にはまだかすかに月が見える。

頭まで完全にさめずにぼっとして天井を見上げていた。

 

「夢だったのか…」

 

先ほどの信頼や感謝の気持ちがまだ心に残っているのに、目の前には眠る前にみたアリエの顔だった。

アリエはまだ目を閉じたまま、しかめ顔で何かをつぶやいているように唇を動かしている。

ドアが揺れているのを見てからやっと自分が目を覚ました原因は

ドアを叩いている音とセルフの声だったと分かった。

 

「大変だ!ドアを開けてくれ!」

 

カエールがドアを開けるまでセルフの緊迫した叫びは続いていた。

ドアを開けてカエールが顔を出したら、セルフは息を切らしながら怒りだした。

 

「早く起きろよ!」

 

カエールは唖然とした顔で冷たい顔で言った。

 

「早く起きろというが、まだ夜中だぞ。一体どうした?」

 

「あのエルフ達が全部死んじゃったよ!」

 

カエールは残っていた眠りが一瞬で消える気分だった。

 

「何だと?何の話だ?」

 

「監獄に閉じ込めていたエルフ達が全部殺されてしまった!」

 

「何?警備兵達がいただろう!」

 

2人は監獄に向かって走っていた。

監獄の前には人々が集まってこそこそ話をしている。

カエールが監獄に入ると、そこには目を背けたくなるような残酷な光景が広がっていた。

傭兵の仕事をしながら、残酷な場面には数え切れないほど出会ったと思っていたが、

今目の前に広がっている死体たちは、あまりにも酷すぎて直視することが出来なかった。

やっと覚悟を決めて、もう一回死体を見た。

胸には矢が刺さり、腹は切り裂かれ、肉と内臓が散らばっている。

激しい憎悪をと哀しみを抱いた者に殺された事は、誰が見てもすぐ分かるくらいだった。

 

「死んだ新婦たちと同じ姿にしておきたかったのか…」

 

カエールがつぶやく声を聞いて、セルフは青白くなった顔で答えた。

 

「いや、それ以上だろう。今までこんなに無残に殺された死体はみたことがない」

 

カエールは振り返って監獄の外を一度見てドアを閉じた。

 

「警備兵たちは何をやっていたんだ?」

 

「警備兵が飲む水に睡眠剤を入れた奴がいるようだ。

夜明け頃、交代に来た警備兵が着いたら、監獄のドアは開けっ放しで、

警備兵達は倒れて眠っていたそうだ」

 

「ちくしょう…」

 

セルフは疲れた顔で死体を見ながら喋りだした。

 

「これからどうすればいいだろう?軍長はまだ意識不明の状態で、つかまった犯人は殺されてしまって…」

 

カエールは膝をついて死体の周りを見て、答えた。

 

「まずは犯人捜しだろう」

 

「同じハーフエルフを処罰するわけ?正直お前でもこうしたかっただろう?」

 

カエールは怒りにふるえながら抗議するように喋るセルフを一度見た後

また死体の周りを観察しながら落ち着いた声で答えた。

 

「処罰するとは言ってない。だがしかし、誰がこれをやったのかは知っておくべきだ。」

 

「何で?」

 

「今回の事件と関係ない他のエルフまで殺そうとするかもしれない。」

 

「まさか、そんな…」

 

「この死体を見てみろ。これは怒りと哀しみに狂ってしまった人の仕業だ。

これで満足できなかったら、他のエルフまで殺害し続けるだろう。

最悪の場合、エルフ達が俺達に戦争を宣言する可能性もある」

 

セルフは何か犯人のヒントが無いかカエールに聞いたが、カエールは顔を横に振りながら立ちあがった。

 

「死体に刺さっている矢や剣も警備兵達に支給されたものだ。目撃者もいないだろう」

 

「あの…カエール。今カイノンにいるジャイアントに頼むのはダメかな?」

 

カエールは何の話か理解できずにセルフの顔を見た。セルフは少し迷った後、口を開いた。

 

「聞いた話では、ジャイアント種族は足跡から情報を掴むそうだ。

俺達には見えない犯人の足跡が残っているじゃない?」

 

 

第8章14話もお楽しみに!
[NEXT]
第八章 夢へと繋がる鍵 第14話
[BACK]
第八章 夢へと繋がる鍵 第12話
 :統合前のニックネーム