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第九章 運命の渦巻 第7話 10.04.07



「何かあったのか? ガラシオン?」

 

ガラシオンは先程からずっと何かに引っ張られているように感じ、後ろを振り向いていた。

 

「プリアの町からずっと、変な気配を感じます…」

 

ガラシオンの話を聞いたロレンゾは後ろを振り向いてみたが、何も感じられなかった。

 

「私はよく分からないな。多分、今回の逗留は長くなったから、離れるのが寂しく感じられて

そう思っているだけじゃないのかな」

 

ロレンゾはまたゆっくりと歩きはじめた。しかしガラシオンはまだ何か怖いものでも見ているような表情だった。

ロレンゾは優しく微笑みながらガラシオンの肩をたたいた。

 

「風がだんだん強くなっている。近い旅館まではまだ残っている。急いで行こう」

 

ガラシオンもそれ以上は何もいわず、ロレンゾの手を握って歩きだした。

プリアの町から感じられる不吉な気配がなくなったわけではないが、

父親の話通り、別れを惜しんでいるのだと思うようにした。

しかし、後に大人になったガラシオンは後悔した。

もし、自分がもっと意地を張ってプリアの町に戻っていたら、多くの命を救えたのではないかと後悔したのだ。

まだ何の罪も犯してない綺麗な魂を持っていたガラシオンには、

シルバがプリアの町に流し込んでいた狂気の気運を感じていたのだ。

シルバはロハの命令に従い、プリアの町の住民に、周りの全てが恐怖に見える
‘狂気の気運を流し込んだのである。

プリアの町の住民達は恐怖と感じる相手に向かい、悲鳴を上げながら攻撃しはじめたのだ。

フロイオンを生け捕りするために派遣されていたリマの兵士達まで巻き込まれ、

街は一瞬で破滅の坩堝に落ちてしまった。

 

「これならロハも満足するだろう」

 

空高くからプリアの町を見下ろしていたシルバはそうつぶやきながらラコンへ戻った。

神が離れた後には血のにおいが満ちていた。

恐怖にかられた住民達は、夫が妻を、母親が自分の子供達を、兄が弟を攻撃してしまった。

一緒に笑い、愛し合った家族や隣人達が、自分を攻撃してくる敵に見えたのである。

生き残るため、目に見える全てを殺そうと思ったのだ。

ほとんどの者が酷い怪我をしてしまい、流れた血ですべてが赤く染まってしまった。

まるでその血を洗い流すように雨が降り始めたころ、フロックスが町の入口に着いた。

地獄のような光景にに衝撃を受けたフロックスは町の中へ入った。

耳に入るのはつらいわめき声と、さらに激しくなる雨の音だけ。

旅館に着いたフロックスの目に、胸にナイフを刺され、地面に倒れているリオナが見えた。

フロックスは走り出してリオナを抱き上げた。

 

「リオナ!リオナ!!」

 

リオナを呼ぶフロックスの耳に、すぐにも消えそうな声が聞こえてきた。

 

「フ…フロック…ス?」

 

「うん、俺だよ。何があった?誰がこんな真似を…」

 

「わ…分からない… いきなり ひ…人々が…」

 

リオナはそれ以上続けられず、生き絶えてしまった。

 

「リオナ…リオナ!お願いだ…目を覚ましてくれ…リオナ!」

 

絶叫するフロックスの声が空まで響いていた。

火の神の絶叫にあわせるように雨足がもっと激しくなり嵐に変わった。

それは、地面に衝突する雨の音に混ざり、だんだん泣き声に変わっていった。

 

「なぜ…どうして…君が死ななければならないんだ…?どうして…」

 

フロックスはリオナを抱き上げて雨の中を歩きだした。

止まらない涙を流しながら、リオナが眠れる場所を探して森へ向かった。

森の奥に白い花が咲いている木を見つけた。

フロックスは木の下にリオナを横たわらせ、周りの土で覆い始めた。

リオナの遺体を埋葬することに夢中だったフロックスは一匹の狼に気付いた。

狼はフロックスではなく、リオナの遺体を狙っているようだった。

沈んでいたフロックスの怒りが爆発してしまった。

 

「死ね!」

 

フロックスの手から大きい炎の塊が噴出され、狼は一瞬で燃えつき、

悲鳴をあげる間もなく、灰になってしまった。

フロックスは土に半分程が覆われたリオナの遺体を見下ろした。

土に埋葬し、墓を作っても、野性動物のエサになる可能性が高いと思い、

フロックスはリオナの遺体を消滅させることにした。

大きな炎が沸き上がり、リオナの遺体は一瞬で灰になった。

フロックスは灰が風に飛ばされるのを見ている間、押さえられない憎悪が燃え上がるのを感じた。

リオナを殺した存在も、リオナの遺体を狙う存在も、すべてを消してしまいたいと思い始めた。

 

 
第9章8話もお楽しみに!
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