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第九章 運命の渦巻 第8話 10.04.21



ナトゥーにエレナの手紙が届いたのは、カエールから頼まれてエルフ達を殺した犯人捜査をした翌日だった。

エレナの手紙には、ハーフリングの首都であるランベックに行く前にプリアの町によってみたが、

ダークエルフは村を出た後だったと書かれていた。

また町人たちの話によると、彼はイグニスに向かったそうだ。

フロンがイグニスに戻ると、殺されるだろう。

ナトゥーがどれほど急いでも、フロンがイグニスに入ることを止める事はできないだろう。

これ以上、自分に出来ることはないと判断し、ドラットへ向かうことにした。

フロンまで手紙が伝わらなかった以上、カイノンに留まる理由がなくなったこともあるが、

イグネスの謀略でドラットが密約に同意する恐れもあるからだ。

 

ハーフリングたちもエレナからベロベロ長老が死んだことについて聞いただろう。

近いうちにハーフリングとダークエルフは戦争になる可能が高い。

ダークエルフと密約を結んだら、ダークエルフから参戦の要請があった場合、断ることが出来ない。

虎視眈々ドラットを狙っていたヒューマンは喜んで侵略してくるだろう。

何があってもそれだけは阻止しなくてはいけない

 

休まず走りつづけたナトゥーは三日目の朝日が昇る頃には、ドラットの国境までたどり着くことができた。

エトンに向かいながら、ナトゥーは誰に相談するべきかを悩み始めた。

最善はドラット国王であるレフ・トラバに報告するべきだが、

ただの戦士にすぎない自分に国王への謁見が出来るはずがない。

 

‘だったら、誰に知らせるべきだ。バタン卿?

いや…何故か彼は信じられない…あったばかりの俺に自分は二番目の王子の支持者だといったけど、

真実かどうか確認できる方法がない…一体誰に…’

 

思い悩んでいるナトゥーに聞きなれた声が聞こえてくれた。

 

「おい!退け!!」

 

後ろから聞こえてくる声は確かにクレムだった。

振り向いたナトゥーは、目の前までライノが近づいてきたことに気付き驚いた。

避ける間もなく、ナトゥーは真正面からぶつかり、飛ばされ地面に転がってしまった。

ライノはかなりの勢いで突進してきたようで、ナトゥーは体が痛くてすぐには立ち上がれそうになかった。

体を丸め、地面に転がりながらうめき声を出しているナトゥーに怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「退けって言っただろう!さっさと避けずに何をぐずぐずしているんだ!何考えているんだ、お前!」

 

ナトゥーは痛みを抑えながら、体を起こし座った。

地面に座り込んでいるナトゥーに向かって怒鳴っていたクレムは、自分のライノとぶつかった人物が

ナトゥーだと気が付き、あいた口がふさがらずに固まっていた。

 

「ナトゥー…?」

 

「相変わらずだな。クレム、ライノのスピード、出しすぎだと言っただろう?

いつかは大きな事故になると、何度も言っただろう。もう忘れたのか?」

 

「ナトゥー!!」

 

クレムは驚いてナトゥーに近づき、肩を握り締めた。

 

「ナトゥー!本当か!本当に生きていたか!」

 

「そうだ。お前の親友ナトゥーだよ。何でそんなに驚くのさ?まるで幽霊にでも出会った顔じゃないか」

 

「本当にお前か?今までいったい何処に逃げていたんだ?」

 

「逃げた?誰がだよ!何故逃げるんだ?」

 

もしかして自分が地下監獄から脱獄した事について既に知っているのかと思い驚いた。

 

「イグニスに使節だと騙して潜入し、ダークエルフの国王を暗殺しようとしたと聞いたぞ!」

 

「何だと?」

 

「しかし、失敗して逃げ出したと聞いていたぞ!」

 

「いったいどういうことだ?もっと詳しく言ってみろ」

 

クレムはいきなりナトゥーをつれて走りだした。

道からずいぶん離れてからクレムは足を止め、息を整えた。

 

「何故ここまで?」

 

クレムのいきなりの行動に驚いたナトゥーにクレムは静かに話し始めた。

 

「いきなりお前が姿を消した後、俺はお前を探しまわった。

しかし、お前の行方を知っている者はいなかった。

先日イグニスから使臣が来た話をノイデ様から聞いた。

そのダークエルフの話によると、ある日ナトゥーという戦士が訪ねてきて

ドラットから派遣された使節だと名乗った。

国王の指輪を証拠として見せたので、何の疑いもなくダークエルフの国王の元へ連れて行くと、

いきなり剣を引き抜き、斬りかかったという。

幸いに近くにいた近衛が捕らえたが、国王はショックを受け今は病に臥せている。

一度は地下監獄に収容したが、鉄格子を破り逃げ出したと、彼が抗議してきたそうだ。」

 

ナトゥーはダークエルフの緻密さに驚いた。

 

「それから、彼らは自分たちの被った被害に責任を取るように言っただろう?」

 

つぶやくようなナトゥーの話にクレムは驚いた様子だった。

 

「そろそろ、密約の件を決定するように言っただろう?」

 

そうだけど…

 

「お前、バタン卿に会ったことあるのか?」

 

クレムは首をかしげながら話した。

 

「バタン卿?最近何度か会ったな… 訓練場に訪ねてきたり、家まで来たりして…」

 

「何の用で?」

 

「さあ…俺の噂をよく聞いたとか…たまにはお前について聞いたりしたな。

もしかしてお前から連絡はなかったのかなど聞かれた」

 

ナトゥーはバタンがクレムを通じて自分の近況を把握していたことが分かった。

 

‘やはり政治家は信頼できない…’

 

「なぜだ?何かあったのか?彼と?」

 

「ノイデ様に会いたい。クレム、お前の力が必要だ」

 

第9章9話もお楽しみに!
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