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第九章 運命の渦巻 第9話 10.04.21



「今何とおっしゃいましたか?」

 

ハーフリングの大長老イゴルは自分の耳を疑った。メッツが両手を組み、軽くため息をついた。

 

「カイノンからリマにいる傭兵全員に撤収命令が下りました。

明日、ランベックを含む、ハーフリング都市全地域に派遣されている傭兵達が撤収します」

 

「なんていうことを!有り得ない!一番傭兵の力が必要な今、いきなりですか?」

 

「しょうがないです。近いうちにエルフと戦争になる恐れがあります。

ご存知の通り、ハーフエルフは人口が少ないです。

全員がカイノンに復帰しても戦争の準備が出来るかどうか、確信も持てません。」

 

「エルフと戦争ですか?何があったのですか?」

 

メッツは硬い表情で立ち上がった。

 

「ハーフリングたちがエルフと交流が多いことは知っています。

しかし、ハーフエルフとエルフの関係は別途のことです。それでは私は失礼します」

 

「契約を破棄するつもりですか?」

 

「契約より生存が先ですね。生き残ることができれば契約も守られるでしょう。

契約に関してはカイノンの軍長と相談してください。それでは」

 

ランベックに派遣された傭兵の代表、メッツが去った後、

大長老は部屋中を行ったり来たりしながら考えをまとめた。

ベロベロ長老がモントの地下監獄に幽閉され、結局死刑されたことが明らかになってから開かれた

情報収集委員会で、情報収集家たちと長老達はダークエルフと戦争することに全員賛成した。

誰かと戦うことを何より嫌うハーフリングたちだが、ダークエルフの残忍な悪行には怒りを抑えず、

大きな決断を下したのだ。

兵士の育成に力を注いでないハーフリングたちが、いきなりダークエルフの相手になるはずもない。

そのためハーフエルフの力を必要としているのだが、傭兵が突然カイノンに戻るとの通告がきたのだ。

 

「大長老!」

 

勢いよくドアが開き、警備兵1人が息を喘ぎながら、飛び込んできた。

 

「何だ?」

 

「大変です!プリアの町に異常事態です! 街の住民及び、ダークエルフを捕らえる為に派遣した部隊が

全滅しました!」

 

「いったい何が起こったのか?全員が死んだと?」

 

「一部生き残った住民の話によると、突然、目に映るもの全てが敵に見え、生き残るために

必死で闘ったそうです。」

 

「一体どうして…」

 

大長老はゆらゆら震えながら、椅子に座りこんだ。

 

「大長老!大丈夫ですか?」

 

崩れる大長老に驚いた警備兵が大長老を支えた。

 

「は…早く…情報収集委員会と長老に連絡を。緊急会議だ。急げ!」

 

「は、はい!」

 

警備兵が緊急会議を知らせるために部屋を出てから、約1時間後に情報収集家たちと長老が集まった。

大長老は顔色が真っ白になったまま、ハーフエルフ達の撤収とプリアの町での悲報を述べた。

全員が驚いた。

 

「ダークエルフに宣戦布告をするのは後にするべきですね。まずはプリアの町の災いを解決しなければ…」

 

銀角のシカの長老が喚き声でつぶやいた。

皆が長老の話に同意するようにうなずいた。

 

「プリアの町の災いが落ち着いた後には、ハーフエルフ達も戻りましょうか・・・」

 

ハルルが心配そうな声で話を続けた。

 

「彼らが戻るとしても、傭兵契約を破棄した方がいいと思います。

エルフと戦争をした彼らを傭兵として雇用することは、エルフ達との関係に悪影響を及ぼすでしょう。」

 

松コケの長老が首を横に振りながら話をしたら、長老がさらに心配そうな顔で続けた。

 

「では、ダークエルフとの戦争はどうすればいいのですか?ご存知でしょう?

ダークエルフの軍事力は強力なものです。彼らの力なくして、私達だけでは対抗できません。

ダークエルフの国王、カノス・リオナンは大きな野心をもっている。

私達が宣戦布告をしなくても、彼らとの戦いは避けられないでしょう。」

 

そこにいる全員が不安な顔で騒ぎ始めた。大長老が手を上げて皆の注意を集めた後に話した。

 

「ダークエルフの軍事力に対抗できる種族がいるとしたら、ヒューマン族だと思います。

過去から今までヒューマン族とは良い関係を維持してきました。

彼らに助けを求めることが一番良いと思われます」


 

第9章10話もお楽しみに!
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