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第九章 運命の渦巻 第13話 10.06.02



 

客が全員集まったという執事の報告を聞いたフロイオンは応接室に入った。

ゴックシャルトを始め、5名が彼を待っていた。

中に入った時、フロイオンと同じ年頃にみえる若い女性がフロイオンの視野に入ってきた。

優雅な佇まいで静かにうつむいていた彼女が視線を上げ、目があった瞬間、

フロイオンは心臓からドキッと音がなった気がした。

ゴックシャルトはフロイオンに挨拶し、人々を紹介し始めた。

 

「こちらがエッドマンド・ピエトラ公爵です。

ご存知だと思いますが、ピエトラ公爵は第4の宰相として勤めています。

その隣の方は、ルブリック・ハインリヒ公爵です。エッドアルドから来ました。

あちらにいらっしゃる方はカラニオン・ジッド公爵で、ハインリヒ公爵の親戚です。

その隣にいる方は、ドミニク・エリアル伯爵と娘のジュリエット・エリアルさんです。

ドミニク・エリアル伯爵は、青い炎の魔法ギルドの代表です。」

 

フロイオンは、ゴックシャルク将軍が紹介してくれる人物と次々と握手をしながら感謝の挨拶をした。

 

「皆さんが私を信じて従ってくれるという話を聞きました。

誠にありがとうございます。

皆さんもご存知の通り、私は先王のロシュ・リオナン陛下の庶子です。

私の出自のせいで多くの人がカノス・リオナン国王に命を奪われました。

私を守ってくれる人たちの為に今まで自分を抑えながら生きてきました。

しかし、これ以上は我慢できないほど、カノス・リオナンは悪辣になりました。

正しいことをいう者は処罰を受け、取り入ろうとする者だけが権力を握っているのが現状です。

私は皆さんの協力を共に、新しいイグニスを創りたいと思っています。」

 

「フロイオン・アルコンさんの言葉通りです。今のイグニスは腐っています。

カノス・リオナンはジャイアントと密約を結び、他の国を攻撃しようと画策していますが、

このままだと、ジャイアントに利用されたあげく、捨てられるでしょう。」

 

エッドマンド・ピエトラ公爵は怒りに満ちた目で話をした。

フロイオンは頷いた。

 

「ジャイアントとの密約の為、ドラットを訪問し、ドラットの力を目にしましたので、

ピエトラ公爵の言葉には一理あると思います。

しかし、ジャイアントはなかなか密約を結ばないと思います。

ドラットのレフ・トラバ国王は、とても慎重な人物でした。

他の国でドラットを相手に戦争をしかけない限りは動かないと思います。」

 

「しかし、ジャイアントが密約を反故にし、イグニスに戦前布告をする可能性もあります。」

 

ピエトラ公爵の話はフロイオンには意味が伝わらなかったようだ。

 

「フロイオン・アルコンさんが亡くなったという噂がイグニスに広がった後、

ドラットから使節が来ました。カノス・リオナンは使節に来たジャイアントを地下監獄に閉じ込め、

彼に国王暗殺の罪を着せて処罰する予定でした。

フロイオン・アルコンさんの死亡と国王の暗殺未遂を仕組み、密約の成立を早めようとしたのです。

しかし地下監獄に閉じ込められていたジャイアントが脱出した為、計画は失敗に終わりました。

逆にジャイアント側に怒りを覚えさせたようです。

もし、カノス・リオナンが使節を監獄に閉じ込めたということが知られると、

プライドの高いジャイアントは戦争をしかけてくるかも知れません。」

 

ピエトラ公爵の説明を聞いた人々の表情は硬くなった。

カラニオン・ジッド公爵は軽く笑いながらしゃべり始めた。

 

「ジャイアントの政治家の中に知り合いがいますが、

ジャイアントの国王は使節がカオス・リオナンの暗殺を試みたことを聞いて、かなり怒りを覚えたそうです。

またそのジャイアントは不名誉なことを冒したとして、ドラットに入ることを禁じられたそうです。

ピエトラ公爵が心配していることはわかりますが、脱出したジャイアントがドラットに入るまでは

まだ時間がかかると思います。

その前にフロイオン・アルコンさんが新しい国王になれば、ジャイアントの使節のことも解決できるでしょう。」

 

カラニオン・ジッド公爵の説明を聞いた人々はようやくほっとしたため息をはいたが、

ゴックシャルトだけが自分の予測から離れていく状況で眉をしかめた。

 

「しかし、急ぎましょう。政治はいつも予測とは違う方向に行くものです。」

 

ルブリック・アインリヒ公爵が話し始めた。

 

「今現在一番大きな壁は国王の兵士たちだと思います。

ゴットシャルク将軍は長い間フロイオン・アルコンの支援者であったと思いますが、

大将軍のロブション・クレジオ公爵は、カノス・リオナンの親友です。

兵力のほとんどを握っているロブションを倒して、カノス・リオナンを王位から失脚させるためには

かなりの犠牲が必要になると思います。」

 

「イグニス内の兵力を分散させることが最優先ですね。」

 

「アルコンさんのおっしゃる通りです。」

 

「話してもよろしいですか?」

 

優しい、しかしはっきりした女性の声が聞こえてきて、フロイオンは振り向いてみた。

声の主人公は、ドミニク・エリアル伯爵の娘、ジュリエット・エリアルであった。

 

「話してください。」

 

「国王の兵力を分散するという話が出ましたが、

一つの方法としては確実に勝つ戦争をすることです。」

 

「勝つ戦争ですか…相手は誰になりますか?

また名分には何を掲げて国王を説得するべきでしょうか?」

 

「国王が無実の罪で地下監獄に閉じ込めた者が、また一人います。

噂によると、ベロベロというハーフリングで宝石細工の専門家だそうです。

ジャドル・ラフドモンからの注文で納品のため完成品を持ってきましたが、地下監獄に閉じ込められたそうです。

しかし、国王はリマにはベロベロというハーフリングがイグニスに向かう途中で

モンスターに教われてしまったと、嘘を伝えました。

ハーフリングたちは信じているそうですが、実は彼はつい最近まで地下監獄に生きていました。

そして、先日斬首されたそうです。

この事実が伝わると、トラブルが嫌いなハーフリングでも戦争を仕掛けてくるでしょう。

その時、私達が先にリマに向かえば、国王の兵力は分散されると思います。」

 

「待ってください。ハーフリングが宣戦布告をしたのに、我々がリマに向かうのですか?」

フロイオンの質問に、ジュリエットが落ち着いて答えた。

 

「ハーフリングは、エルフやヒューマンに親密感を持っています。

宣戦布告をする前に、ヒューマンやエルフに支援を要請すると思います。

ハーフリングが宣戦布告をし、イグニスに来ることをただ待っていたら、

カノス・リオナン国王を落とすより先に、イグニス全体が危なくなります。

私達が先にリマに行き、兵力が分散されたところでカノス・リオナンを王位から降ろし

フロイオン・アルコンさんが国王になるのです。

それからリマに謝罪を伝えれば、ハーフリングたちも納得すると思います。

私達が望んでいるのは、カノス・リオナンの兵力を分散することで、

ハーフリングたちが望んでいるのは、ベロベロの死についての謝罪だと思います。

ハーフリングが望むなら、カノス・リオナンをリマに送り、彼らが望む通りに

処罰されるようにすることも出来るでしょう。」

 

ジュリエットの計画にフロイオンは感心した。

ジュリエットのいうとおりになれば、大きな犠牲なく、カノス・リオナンを王位から失脚させることが出来るだろう。

 

「しかし、ハーフリングたちにベロベロの話をどうやって伝えますか?」

 

ゴックシャルクが聞くと、ジュリエットが答えた。

 

「ゴックシャルク将軍の役割が大事になります。

ハーフリングたちが宣戦布告をしたら、即時にリマを攻撃するように国王を説得する必要があります。」

 

「ご心配なく。カノス・リオナンは欲張りです。

いつもリマの資源を狙っていましたので、リマを攻撃することを話せば、簡単に同意すると思います。」

 

みんな満足する表情になった。

フロイオンは執事が持ってきたワイングラスを持ち上げ、皆に乾杯を求めた。

 

「皆の努力が報われるように…

新しいイグニスの誕生の為に、みんなで乾杯しましょう。乾杯!」

 

みんなグラスを高く掲げ、乾杯を叫んだ。

グラスの中のワインが少し揺れた。

一瞬で飲み干したフロイオンは、ジュリエットを見ながら小さい声でつぶやいた。

 

「…美しいあなたにも…乾杯」

 

 

 

第10章1話もお楽しみに!
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