イグニスに帰ってからフロイオンは姿を隠したライに護衛されていた。
フロイオンは、自分が死ぬことが無い限り絶対にその姿を現すことがないようにライに頼んだのだ。
そのため、ライの存在を知っている者はいなかった。
彼女はいつも姿を隠したまま、フロイオンを護衛していたのだ。
フロイオンを支持する貴族たちはだんだん増えていたが、
ライの目には彼らは自分の欲のために動いているとしか見えなかった。
ライは彼が仮面の後ろでどんな表情をうかべているのか、フロイオンが知っているかが気になった。
「もちろん知っています。イグニスはそんなところです…」
「それを知った上で、彼らとこんな大事なことについて話が出来るのですか?」
「彼らにも重要なことで裏切らないことを知っているからです」
「一種の賭け事ですね…」
ライの言葉にフロイオンはうなずいた。
「そうですね…そういうことかも知れません。しかし…」
読んでいた手紙をティーテーブルの上におきながらフロイオンが続けた。
「その中で…一人でも私のことを真剣に考えてくれることを期待しています」
「私が口を出すことではありませんが、カラニオン・ジード公爵には注意した方がいいと思います。
その人は表の顔と裏の顔がまったく違う気がします」
「カラニオン・ジード公爵?ジード公爵は私とジュリエットの仲人になってくれたありがたいな方です。
なぜ彼を疑っているのかわかりかねます」
「直感としておきます」
フロイオンはすこし気に障った様子だった。
「判断するのは彼方です。私はただ私が見て感じたことを今言っているだけです。
気に障ったら謝ります。これから彼方に私が考えたことを言う事はもうないと思います。
ただ、一つだけ最後に話しておきます。
生きることは一つの大きな賭け板です。信じられるのはたったひとり自分だけです」