エルフ達の目につかぬようラウケ神殿修道院まで行くのはなかなか大変だった。
しかし母親に会いたい強い気持ちでナトゥーは修道院に着いた。
ナトゥーはライノから降りて、修道院の門に向かった。門といっても門ではなく、アーチだった。
誰でも歓迎しますともいうように、やわらかい曲線になっていた。
アーチの中に入るときれいな庭園が迎えてくれた。
庭園の中にはエルフが本を呼んでいたり、静かに話し合っていたり、平和な様子だった。
ナトゥーは自分もしらず緊張して、腰にかけている剣に手が向かったが、そんなナトゥーと目が合った
エルフは優しく微笑むだけだった。
庭園を見回ったら、向こう側に建物の入口があった。平和な一時を送っている人々の中で、
武装した自分が無法者のような気がして、急いで入口へ向かった。
入口の前で少し迷ったが、ドアをたたいてみたら、中から人が出た。
赤い髪の毛に緑色の目がきれいなヒューマンの女性だった。
ナトゥーはヒューマンの女性が出て一瞬緊張したが、彼女は驚く様子はなかった。
「何の御用ですか?」
彼女の優しい質問にナトゥーも落ち着いて答えた。
「俺は…母親を探しています。ここに向かうと手紙を残して家を出ました」
「あ、そうですか?失礼ですが、母親のお名前を教えていただけませんか?」
「ナニ…ナニです。私は息子のナトゥーです」
「あ、ナニさんの息子さんでしたか?よく来てくれました。さあ、案内しますので、私に付いてきてください」
赤い髪の毛のヒューマン女性の後ろを追いついていきながら、
建物の中に様々な種族の人々がいることをみて驚いた。
ダークエルフ、エルフ、ハーフリング、ジャイアントまで…
ロハン大陸に住んでいる種族の人が住んでいるのに敵対している様子はなかった。
壁は本で埋め尽くされている部屋と通路を通して、ガラス張りの部屋に届いた。
ナトゥーに案内してくれた女性はドアの前で止まった。
「この部屋にナニさんがいます。一つ…前もって話したいことがあります。」
ナトゥーの頭に不吉な予感が走った。彼女は迷っている様子でようやく口を開いた。
「ナニさんの体は弱くなっています。心の準備をした方がいいと思います」
「母親が…生きる時間が余り残っていないとのことですか…?」
彼女は静かに頷いた。
「元気ではない体で長期旅行をしたのが原因ではないかと思います」
ナトゥーは何も言わず部屋の中の様子を見た。遠くから母親の姿を見つけたナトゥーの目が潤った。
髪の毛が真っ白になった母親はベッドの上に座って、窓の外から入ってくる日差しを楽しんでいる様子だった。
「母親に残っている時間を見守ってください」
彼女はナトゥーの話に静かに頷いてから部屋の中に入った。
ナトゥーも何もしゃべらずに母親がいるベッドに近づいた。
当分そのまま目を閉じていたナニは人気を感じたように目を開いた。
「ナトゥー…」
「母上…」
ナトゥーの母親は目が潤って息子の方を抱きしめた。
「ナトゥー…ナトゥー…生きていた!私の息子が生きていたんだ…」
「母上を残して死ぬわけにはいきません…」
「ナトゥー…」
ナトゥーの母親はナトゥーを抱いたまま、むせび泣きをした。
ナトゥーも母親を強く抱いて泣いてしまった。
体が弱くなっている母親をつれてドラットに戻ることは無理だったので、
ナトゥーは心の準備をしながら、母親と一緒に修道院に泊まった。
ある日ナニは寝る前にナトゥーの頭をなでながら話しをした。
「ナトゥー、誰かを憎み、攻撃するより、心を開くようにしてみて。
心を開くことがもっと豊かな生活が出来るようにしてくれるの」
「いきなり…なんで…」
「あなたはジャイアントの戦士だね。戦いばかりしているうちに自分も知らないうちに人を憎んでしまうの。
私はいつもこれを彼方に伝えたかった。今話さないと後では話ができないかも…」
「母上も知っているでしょう?俺は頭が悪いから、一回では覚えられません。明日もう一回話してください」
母親は優しく微笑んでくれて横になった。
翌日の朝、ナトゥーが来たら、微笑みを浮かべたまま、寝ていた。
亡くなっていたのだ。
ナトゥーは静かに涙を流した。