風に舞い降りる羽のように、 川に流れてゆく花びらのように、 一つの光りが砕け散るそのときに、 不滅の闇は目を覚める。
悲しみが泣き、 絶望が叫び、 苦痛が恐れる 暗黒の時間の始まりに、 ドラゴンの息吹が大地に根を下ろし、 生命の泉は乾く。 そして 空から降りた雨粒は海で一つになる。
ロハンの子供たちが太陽に向けて歩き出す。
光の子が闇の中で目を覚ます。 重たい叫びの中で真の声を聞き、 世界の果てまで歩き出すであろう。
水の子が喉を渇かす。 浮かび上がる欠片が全てを染めると 涙に染みていく虹を歌うであろう。
炎の子は死を味わう。 心の安息が終わり、灰から生まれ変わったら 復活の羽ばたきで永遠へ向かうであろう。
大地の子が沈黙する。 涙と微笑で怒りを抱き 凍りついた魂に優しい手を伸ばす。
木々の子が冬を迎える。 乾いた枝と落葉の中で自分の根を見つけ、 最後の種に笑って挨拶する。
影の子が血の匂いをかぐ。 全てから目をそらされて、全ての優しさを感じると 心の扉が開かれ古びた鍵に手を伸ばす。
海の子が空を見上げる。 分かれ道に立ち、鏡の中の自分を見つめ、 黄金の靴の変わりに茨の冠をかぶる。
我が声は去っても、 我が涙は永遠たるもの、 ヘルラックよ、 汝に希望の鍵を預けよう。
「デルピンが生きている間には周りの人にこの詩の最初のところしか話さなかったそうです。 私たちの首都であったレゲンと今の首都であるヴェーナに関する話です」
疲れた顔のシルラ・マヨルが言葉を出した。 リマとトリアンの目の前に開かれた巻物にはデルピンの詩が書かれている。 巻物の文字が光りだしてから、同じ内容の詩が書かれた 白い紙をトリアンの手に落として消えてしまった。 短い時間の間の魔法だったが、ものすごい魔力を消費させるものだと知った トリアンは恐ろしさまで感じる。 ようやくヴィア・マレアの国王になるための条件の一つが 強力な魔力の持ち主である理由が分かった。 エルフの中でもっとも強い魔力の持ち主の一人であるシルラ・マヨル・レゲノンが あれほど疲れを感じる魔法であれば、一般人はあえて試してみることすらできないはずだった。
「デルピンの予言はこれで全部ですか?」
リマ・ドルシルは戸惑ったようにシルラ・マヨルに問う。
「ええ、それがすべてです。 デルピンはレゲンに関する不吉な予言しか残しませんでしたゆえ、 他の神官たちのように預言者の記録書に何も残せなかったのです。 この詩が残されたのも、デルピンの弟子のお陰です。 彼は師匠の予言を信じたため、デルピンが涙の洞窟に入ったあと、 この詩を持ってエルス港まで逃げました。 私が女王になった後、その弟子の子孫が私を訪ね、 この詩を渡してくれました。 ゆえに預言者の記録書に残されなかったデルピンの他の予言とは違って、 唯一残されたものです」
リマはトリアンの手に落とされたデルピンの詩をもう一回読んでみたが、 何も察知できなかった。
「陛下はこの詩が何を予言しているのか御存知ですか?」
「いいえ、今まであの詩を解読した人は一人もいません。 私もまたその詩を解読しようとしましたが、 分かったのはロハン大陸の悲劇を阻止するため誰かが現れることだけです。 それが誰なのか、いつどこから現れるかもまだ分かりません」
シルラ・マヨルはトリアンに近づき、彼女の両手を握りながら話す。
「なんとなく貴方ならこの詩が解読できるような気がします。 何か必要なものがありましたら、いつでも私を訪ねてください」
「全力を尽くします、陛下」
「では私はこれにて失礼します。今度また会えるそのときまで、 お二人とも元気でありますようお祈りします」
女王はまた暖かい視線をトリアンに投げて部屋を後にした。 女王の姿が視野から消えてからリマ・ドルシルは重々しい口を割る。
「どうすればいいのか分かりませんね。 何かのヒントでも得られるのではないかと思いましたが、 解けるべき謎が増えてしまって…」
「私がやってみます」
トリアンは決心したというように強い口調で言った。 リマ・ドルシルは驚いた顔でトリアンを見つめる。
「私はヘルラックという名前を存じています。 彼はヒューマンの国、デル・ラゴスの昔の預言者だそうです。 エルフの中では彼の名前を知る人は誰もいないと思います。 多分女王陛下さえも御存知ではないでしょう。 もしかしてこの詩を解読することが私の定めなのかも知れません」
彼女はいったん話をやめてまたデルピンの詩に書かれている 「ヘルラック」という単語に視線を投げてからまた話し始める。
「今分かるものはそれしかありませんので、 デル・ラゴスでヘルラック調べてみる必要があると思われますね。 そこで答えが得られるか、またはもっと遠くまでの旅になるかは分かりませんが、 どうか幸運を祈ってください、大神官様」
「トリアン…」
リマの目に涙が浮かんだ。 トリアンはそんなリマを慰めようと明るい声で話す。
「あまり心配しないでください。 すぐお戻りしますから」
リマはトリアンに近づき、彼女の頭に手を載せ、祝福の祈りを捧げる。 トリアンは目を閉じてリマの声に耳を澄ます。 柔らかく清らかな日差しのようなリマの祈り声を聞いて、 トリアンはロハン大陸から目をそらした神たちも彼女の声を聞いたら その祈りを聞いてくれるのではないかと思った。 どうして神たちがロハン大陸に終末を齎そうとするのかは分からなかったが 少なくともエルフの創造神であるマレアはそうでないと信じたかった。
しかしそれはただ彼女の望みに過ぎなかった。 トリアンがリマの祈りに耳を澄ましているその時、 アルマナ荘園から近い森の中で女神マレアがエルフたちの前に現れた。 エルフ達は自分たちの前に姿を出した存在が誰なのかを分かったとき、 だれもが跪いて涙を流した。 長くどんなに祈り続けてきても答えをくれなかった神が やっと自分たちを救うため現れたと思った。 しかしマレアの口から流された言葉は想像もできなかったものだった。
「私の創造した者たちよ、 私は貴方たちを純粋の結晶として創り上げたのに、 なにゆえかのような不潔なものがこの世に生まれるようにしたのか。 貴方たちの血が混じっているかの不完全な存在の物たちを 直ちにこの世から消しなさい」
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