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第六章 嵐の前夜 第7話 09.04.22
 

朝露がなくなっていく頃、
カエールの目にカイノンの入口を守っている警備兵たちの姿が入って来た。
警備兵たちは馬に乗って走ってくるカエールに気づいて手を振りながら声をかけた。

「おい!カエール!久しぶりじゃないか!」

カエールは馬を減速させながら、警備兵たちに近づいた。

「ああ、久しぶりだな。みんな元気だった?」

「そりゃ元気さ。ちょっと…問題があったけど…まあ、それは後で分かるさ。
ところで、何の用で帰ってきたんだ?休暇でももらったか?」

「アリエから急いでカイノンに戻ってほしいという手紙があったんだ」

警備兵たちはお互い顔色を伺ってからカエールを見つめながら言った。

「そっか…それより、アリエとの結婚はいつするつもりだ?」

「さあ…多分祭りが終わってからだと思っているが…」

「ふむ、その時にはもう安全かもしれないな」

「どういう意味?」

警備兵たちは慌てて手を振りながら、なんでもないと言った。
眉をしかめるカエールを見ながら、警備兵たちは
アリエが待っているから早く行ってみろと言って、慌ててカエールのそばから離れた。
カエールは馬首をカイノンの町の方へ向けると、再び走り始めた。
盆地に隠れた天然要塞:カイノンは、すぐにその姿を現した。
カイノンの入口である短いトンネルを通過すると、
空を突き抜けるように伸びている樹木が目の前に広がった。
その大きな樹木を中心に、ハーフエルフたちの家々が集まっていた。

カエールを見つけた人たちはうれしそうな顔で挨拶をしてきた。
村人の挨拶に笑いながら手を振って答えたカエールは、
自分の知らない顔がいくつか増えている事に気がついた。
用兵の仕事のため村を離れていて、戻ってくるといつも新しい顔が増えていた。
ゾナトがカイノンにハーフエルフの本拠地を据えてから、
全大陸に離れ離れになっていたハーフエルフたちが一人、また一人と集ってきた。
そして、今もまた新しいハーフエルフたちが自分たちの村を目指して旅をしている。

「カエール!」

カエールは自分を呼ぶ声に気がつくと、微笑みながら馬から飛び降りた。
腰まで届くほどの金髪を揺らしながら走ってきた女の人は
カエールの胸に飛び込んだ。
カエールは彼女をぎゅっと抱きしめた。

「元気だった?アリエ」

カエールの胸に抱かれていた彼女は顔を上げ、微笑みながら言った。

「それは私のセリフだよ。最も危険な所にいたのはカエールでしょう」

「フィアンセが待っているのに、危険だからと言って死ぬわけにはいかないだろ」

アリエはにっこり笑って、カエールの頬にキスをした。

「荷物から片付けましょう。聞いてほしい話がいっぱいあるの」

「そうだと思ったよ。何の理由もなしに急にカイノンまで来てほしいって言うわけないよな」

カエールはアリエを抱き上げて馬に乗せると、馬を引きながら家へ向かった。
家の前にあるポプラの木に馬を留めた後、二人は家の中に入った。
カエールが荷物を片付けている間、
アリエはキッチンで冷やしておいたビールの樽を出して
大きなジョッキいっぱいにビールを注いだ。

「ほら、カエールの大好物、バーガンディのビールよ。
今年初めて作られたビールなの」

「さすがアリエ。
俺がこのビールをいくら飲みたかったか…
ハーフリングたちの料理の腕は認めるが、
やっぱりビールを作る腕は俺らに追いつく種族がいないらしい」

カエールはアリエが渡したビールを一気に飲み干した。
満足げな表情のカエールを見ながらアリエが言った。

「心の準備は出来た?」

「ジョッキが特に大きかったから、覚悟はしてるけどな。
いったい何があったんだ?外で警備員たちにも会ったけど、
様子を見る限りだと、私たちの個人的な問題ではなさそうだったが…」

「そうよ。
実は今回は私ではなくてゾナトが呼んだのよ。
詳しい話はゾナトの部屋で聞く事になるでしょう。
あなたが着いたというのも村人から聞いて知っているでしょうから、
もういつものところに集まっているはずだよ」

カエールは分かったと首を縦に振ってから、
アリエと一緒に家を出てゾナトの所へ向かった。
大きな木の周りを半分ぐらい回ってしばらく歩いていくと
紫と青緑色の布で屋根を覆った、少し大きめ建物が現れた。
入口には大きな石弓を持って武装している近衛兵二人が立っていた。
近衛兵たちはアリエとカエールが入れるように道を開けてくれた。
中に入り、ドアを開けると部屋の中に円卓を囲んでゾナトとセルフが二人を待っていた。
ゾナトは席から立ってカエールを向かえた。

「よく来た、カエール。
つい先セルフからカイノンにお前が到着したと聞いて待っていた所だ」

「久しぶりだ、カエール」

「久しぶりです。ゾナト、セルフ。
家に寄って荷物を片付けていて少し遅くなりました」

「大丈夫。さあ、みんな座ろう」

みんなが円卓を囲んで席につくとゾナトが神妙な面持ちで口を開いた。

「アリエからもう話を聞いたかもしれないが…」

「いいえ。アリエは何も話してくれませんでした。
ただ、心の準備が要るとの話だけを…」

「そうか…そうだな。確かに心の準備が必要な話だ。
できることなら、私の話を最後まで聞いた後も今のように沈着な姿を見せてほしい」

ゾナトは一回深呼吸をすると、落ち着いた口調でカエールに語り始めた。

「最近4人のハーフエルフが異様な殺され方をした。
彼らはみな結婚式をあげていたハーフエルフの新婦だったが、
結婚式の途中に、腹に手のひらぐらいの大きさの穴が開いて、その場で死んだ。
死んだ彼女たちの隣には誰一人いなかったから、
我々は魔法で攻撃されたのではないかと推測している」

「もしかして、結婚式の前に毒が入った物を食べたり、
病気だったのではないですか?」

カエールの質問にセルフは首を横に振りながら答えた。

「違う。結婚式の前まではみんな健康だったし、
遺体を調べて見たが、毒や病気の跡は全く捜せなかった」

「そしてモンスター達の呪いでもないよ。
リーラの結婚式に行ったけど、
近くにモンスターとかは見当たらなかったもん」

アリエの話に頷くカエールを見ながらゾナトが言った。

「我々はこの事がエルフの仕業と思っている」

「そう思う根拠でもありますか?」

カエールの質問にセルフが声を荒げて言った。

「こんな真似するようなやつらはエルフ以外にいないんだよ!」

「これは簡単に見逃せる問題ではないんだ。
戦争にまで拡大する恐れがある。
だから慎重に行動しないといけない。
中途半端に矢を飛ばしたら、我々にとっても望ましくない結果が待っているだろう」

カエールの厳しい指摘にセルフは口を黙って頭を下げた。

「根拠はない。
だが、結婚式で新婦のお腹に穴を開けるという行為に
儀式的な意味があると考えている。
生命が宿る部分を攻撃しているということは、
我々の子孫の繁栄を妨げようとしているんだろう。
ヒューマンとエルフにとって、ハーフエルフの子供の誕生が好ましくないことは
誰もが知っている事実だ。
そして、魔法を使ったという事からヒューマンではなく、エルフだと思ったのだ」

ゾナトの説明にカエールは同意しながらも、自らの見解を述べた。

「エルフの仕業と思われる所がもう一つあります」

「何だ?」

「周りにモンスターも何もいなかったという所です」

ゾナトはよく理解ができないという表情で、カエールの説明を促した。

「殺人者は我々の中にいるという事です」

第6章8話-1もお楽しみに!
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