HOME > コミュニティ > 小説
第九章 運命の渦巻 第2話 10.03.10


「何だと?王城の地下監獄に閉じ込められた囚人が脱獄できただと!?ゴット・シャルク将軍!

一体部下の管理をどうしているのか?」

 

カノス・リオナンは怒りを抑えきれずに王座から駆け下りて、

膝ついて下を向いているゴック・シャルトに怒鳴った。

ちらほら白髪が混ざっている将軍は静かに答えた。

 

「陛下、お許しを。全ては私の責任です」

 

「ちくしょう!ただの囚人じゃないじゃ!ジャイアントからの使節を人質にしていたのに!

よりによってあいつが脱獄するなんて!いったいどうやって脱獄できたのか!」

 

「当時の警備兵の報告によると、黒い仮面の人に襲われて気を失ったそうです。

目が覚めてみたら、監獄の扉は開きっぱなしで…」

 

「だから!どうしてそんなことが起こるんだ!

しかもあいつは国境の警備まで簡単に通過したじゃないか!」

 

カノス・リオナンの怒鳴り声の間に、ジャドルの声が聞こえてきた。

 

 

「どうか落ち着いてください」

 

カノス・リオナンは怒鳴るのを止めて、ジャドルが立っている方向をみた。

彼女は誘惑するように王座まで歩いて話を続けた。

 

「もう年寄って剣も振るえない将軍に怒ったって、陛下の頭が痛くなるだけでしょう」

 

ジャドルの軽蔑が混ざったしゃべり方にもゴット・シャルクは何の表情の変化もなく下を向いているだけだった。

カノス・リオナンは王座に戻り、まるで倒れるように腰を下ろした。

 

「ゴックシャルク将軍、彼方が先王に忠誠していたことはよく覚えています。

私にもその忠誠を見せて欲しい」

 

「もっと力を尽くして頑張ります」

 

「これから当分は顔を出さなくていい。あと一週間くらいは怒りが収まりそうではない」

 

「はい。陛下のお呼びがあるまで自宅で謹んでおります」

 

「下がれ」

 

カノス・リオナンは面倒くさいというように顔も見ずに手を振っていた。

ゴック・シャルト将軍は城門に出て自宅に届くまで無表情で何も言わなかった。

自宅について馬から下りる彼を執事が迎えながら挨拶の言葉を渡した。

 

「お帰りなさい、ご主人様」

 

「うむ…」

 

ゴック・シャルクは頷きながら、かけている厚いマントを脱いで執事に渡した。

 

「今日はいかがでしたか?」

 

執事は、主人の後を歩きながら家へ入りながら聞いた。ゴック・シャルトは何気なく答えた。

 

「いつもと同じ。今日も相変わらず王冠を被った犬がうるさくほえていた」

 

「ご主人様…」

 

「ひゅ…この国の未来は本当に心配だ。今王座に座っている彼は王として認められない」

 

「ご主人様…」

 

「疲れたな…ちょっと休みたい。今日は一人になりたいから、誰に聞かれたら、そう伝えて」

 

ゴック・シャルクは答えている執事を後ろにして自分の書斎へ足を運んだ。

部屋の真ん中には氷のように冷たい水が流れている噴水がある。

ゴック・シャルクは噴水の横に座り、水に手を浸した。

 

「ふむ…」

 

溶岩のように静かに湧いていた怒りが冷たい水のお陰でさめていくことを感じながら、

ゴック・シャルクは重いため息を吐いた。

イグニスの現国王であるカノス・リオナンは先王のロシュ・リオナンに少しも似ていない。

ロシュ・リオナンは父親のゴンサロ・リオナンや王妃であるシャロット・コンテブローに振り回されるばかりの

案山子のように力のない王だったが、正否が判断でき他人が配慮できる人だった。

父親と王妃の勝手な主張で無理やりに近い命令を出すときはいつもすまないという表情をしていた。

だからこそ、王室と貴族のたちの激しい戦いが続いてきた歴史の中で唯一静かな時期でもあったのだ。

 

「まあ、今も静かなのは静かといえるな…狂った犬がうるさくほえているから、他の声は埋もれてしまうな…」

 

ゴック・シャルクは独り言をつぶやきながら苦く笑った。

文句一つ言わずに国王の命令に従ってきたゴック・シャルクが気に入ったのか

ロシュ・リオナンは自分の本音を言ってくれた。

ロシュ・リオナンにはアンジェリーナ・アルコンという恋人が出来た噂が

お城全体に広まる前にゴック・シャルクは知っていた。


伝令になってロシュ・リオナンからアンジェリーナ・アルコンへ贈るプレゼントを伝えたり、

自宅でパーティーを開き、ロシュがアンジェリーナと合えるようにするなど、以前から知っていたのだ。

そこまでやったのは、先王にゴマをすり、権力をつかむためではなかった。

ただ、ロシュ・リオナンの切ない表情に負けたからだった。


しかし、ゴック・シャルクは王妃や次の国王になれるカノスを忘れないように忠告していた。

そのたび、ロシュは絶望がこもった表情で顔を横に振っていたのだ。

ゴック・シャルクが先王の反応が分かったのは、偶然廊下でカノスと出会ってからだった。

彼は傲慢な顔で歩いていた。自分以外の全てを軽蔑する目差しはまるで悪魔のようだった。

丁寧に挨拶をする人々を見下ろす表情は、虫を見ているようだった。

ゴック・シャルクがロシュにカノス・リオナンにも愛情を見せるように助言するたびに

何故そんなに否定的な反応だったのかがすぐ分かった。

反面、ロシュとアンジェリーナの間で生まれた異腹兄弟フロイオン・アルコンはロシュに似ていた。

しかし先王とは違って、彼は自分が正しいと信じていることは最後まで進める強い面を持っていた。

 

「フロイオン・アルコンが国王になれたらよかった。

フロイオンならイグニスをロハン大陸で一番強い王国にすることが出来たはずだ。なのに…」

 

ゴック・シャルクはフロイオン・アルコンとアンジェリーナ・アルコンを守れなかったことが

一番胸が痛むことだった。体が衰弱してベットの上で横になって生活していたロシュの代わりに

王になったカノス・リオナンは権力を振舞うようになった。

ゴック・シャルクは西の国境線に配置され、エルフ達の侵入を警戒するように言われた。

エルフ種族に好感はないが、彼らが理由もなく国境線を越える種族ではないと分かっていた。

理不尽なことだと思いながらも、ロシュ・リオナンの印章が押されている命令書には従うしかなかった。

元から彼が嫌いだった、王妃のアイデアではないかと思いながらも従うしかなかった。

 

半年後、ロシュ・リオナンの逝去でモントに戻った彼は

アンジェリーナとフロイオンがお城から追い出されたことがやっと分かったのだ。

ロシュ・リオナンの本当の家族は2人だけだと思った彼は二人を探してみたが、

フロイオンだけが誰とも会ってない噂があるだけで、アンジェリーナは痕跡すら残っていなかった。

また、アンジェリーナがモントの地下監獄の中で先王妃に殺されたという噂も広がっていた。

ロシュ・リオナンに引き継ぎイグニス国王になったカノス・リオナンは王位継承式が終わる途端、

祖父であるゴンサロ・リオナンをお城から追い出し、二度と政治に手を出せないようにした。

 

また議会の力を弱くさせる為に自分の命令に従わない貴族たちを処罰した。

誰より彼の剣の先に置かれていたのは異腹兄弟の次の王位継承権を持っているフロイオンだった。

彼は多くの貴族から支えられていたのでカノスも敵対感を表には出さなかったが、

裏でフロイオンを狙っていることは明らかだった。

フロイオン自信も不愉快な誤解がないように、貴族たちと距離を置いて静かに過ごしていた。

ロシュ・リオナンの葬式が終わってから、会いに行ったが、断れてしまった。

ゴット・シャルトが出来ることは、遠くから彼を援護しながら、彼を狙っている暗殺者を処理することだけだった。

フロイオンは自分の能力を抑えながらもイグニスのために貢献するため頑張っていた。

その努力でようやくジャイアントとの秘密協約の外交官になったと噂を聞いた。

 

「ひゅ…」

 

ゴット・シャルクは立ち上がり窓辺に近づいた。

火山灰に覆われた空は重く沈んでいるようだった。まるで彼の心境のように。

ゴック・シャルトは後が長くないことを感じていた。十分歳をとっているのだ。

だからこそ、先王のためにフロイオン・アルコンを国王にさせたかった。

 

それで、直接仮面を被り、自分の部下を攻撃までしながら、ジャイアントを地下監獄から脱出させた。

カノス・リオナンの命令で地下監獄に閉じこまれたジャイアントはドラットに帰り

自分が受けたことについてしゃべるだろうし、そうなるとジャイアントとの秘密協約は出来なくなるだろう。

プライドが高いことで有名なジャイアント族がダークエルフに宣戦布告をしてくる恐れもあった。

しかし、長い期間を説得したのに、なかなか秘密協約に合意しないところを見て、

現ジャイアント国王は慎重な人だと判断したからこそ、彼を脱出させることまで出来た。

ジャイアントが秘密協約にまた一歩下がると感じたら、カノス・リオナンはあせりより集中するだろう。

その隙間を狙って、カノス・リオナンを暗殺そ、フロイオン・アルコンを王位に上げるのがシナリオだ。

彼の最後の任務であり、願いでもある。

 

第9章3話もお楽しみに!
[NEXT]
第九章 運命の渦巻 第3話
[BACK]
第九章 運命の渦巻 第1話
 :統合前のニックネーム