「あなたの言うとおり、ジャイアントの戦士は足跡で人の姿を読むことができます。
望むなら殺人現場に残っている足跡を読んで、犯人の姿について描写できると思います。
しかし慎重に考えた方がいいです。あなたの親友が犯人になる可能性もあります」
ナトゥーの話にセルフは迷う表情だったが、カエールは冷静に答えた。
「すでに覚悟しています」
殺人現場に到着したナトゥーはカエールとセルフが見ている中で足跡を調べ始めた。
ナトゥーの姿を見ていたセルフがカエールにささやいた。
「どう考えても二人は死ぬべき罪を犯しているじゃ。お前もそう思うだろう?
なのに、犯人を捜す必要があるのか?」
「犯人を捜す目的が犯人を処罰するためだけではない。
犯人を捜すことはカイノンの秩序にも関係がある。
カイノンにいるハーフエルフは執着心が強くない。俺も同じだ。
それに秩序まで乱れてしまうと、私たちはただの烏合の衆になってしまうんだ。
軍長もきっと同じことを言ったと思う」
その時、ナトゥーがカエールに近づいてきた。
「いかがですか?何か分かりましたか?」
「犯人は大柄の人です。背はあなたより頭一個分は高いと思います」
ナトゥーはカエールを指しながら話をした。
「大柄だけど、太ってはいない。逆に体全体の筋肉を鍛えていて、動きには力が入っているはず。
特徴的な所は両手を使える人ということです。
いつも両手を使っているのか、足跡に偏りがありませんでした」
カエールはわめき声を出しながら頭を抱えた。
セルフはまだ誰も浮かばないのでカエールに聞いた。
「誰か分かりそう?」
「ヘベット…」
「ヘベット?確かにヘベットが彼が描いた人に似ているが…ヘベットが本当に犯人だと思ってる?」
「俺がやった」
低い声が聞こえてきて、2人は後ろを振り向いた。そこにはヘベットが落ち着いた様子で立っていた。
「俺がエルフたちを殺した。しかし、ぜんぜん後悔していない。やるべきことをやったと思うんだ」
セルフは何も言わず、ヘベットに近づき肩をたたいた。
しかし、カエールは冷たい声で話し始めた。
「彼らを殺してお前はすっきりしたかも知らないが、
これでハーフエルフみんなが危険な状況になってしまった」
「カエール、やめろ!ヘベットは目の前で愛している人を失った。
お前の目の前でアリエが死んだと想像してみろよ!ヘベットの気持ちが十分分かるだろうが!」
「もちろん俺も分かっている。しかし、ヘベットのせいでハーフエルフみんなが
ヴィア・マレアから迫ってきたエルフに殺されることになっても、ヘベットの気持ちが分かると言えるかよ!」
「それは…」
「二人とも俺のせいで喧嘩する必要はない。
俺がやったことでハーフエルフ全体が危険になるとしたら、俺の命を捧げるから」
いきなりドアが開いて、アリエが入ってきた。
「カエール!エルフが着た!」
「エルフが?何の用だ?」
「アルマナ荘園の領主で、自分の息子を探しに来たと、
エルフ警備兵たちと一緒に軍長を探しているの!」
「まさか犯人の中に息子がいたということか?チクショウ!」
死んでしまったエルフたちの死体に驚くアリエを後にしてカエールは急いで広場へ向かって走り出した。
ゾーナトがまだ意識を失っているため、バニビが代わりにエルフの相手をしていた。
リーダーに見えるエルフがバナビに手紙を渡した。
バナビはエルフから渡された手紙に目を通してから、カエールに手渡した。
手紙はヴィア・マレアの女王、シルラ・マヨル・レゲノンの親書で、
カイノンで息子を探しているだけなので、協力して欲しいと書いてあった。
「ロザリオ・ベニチさん、なぜ息子さんがここにいると思っていますか?」
「私は息子がここにいないことを祈っています。
エルフにとってカイノンは危険なところじゃないですか?
しかし、この辺で息子がハーフエルフと一緒にいるところを目撃した人がいます。
本当に息子がここにいるか確認するために来ました」
「なるほと。でしたら…」
バナビが話をしている途中、カエールが話し始めた。
「話し途中、失礼します。ちょっと聞きたいことがあります」
「何ですか?」
「もし、息子さんがカイノンで罪を犯しているとしたらどうしますか?」
「ペルナスはそんなことをする子ではありません。しかし小さい罪でも犯しているなら、
ヴィア・マレアの法律に基づいて処罰されるべきでしょう」
‘やはり3人の内一人がこの人の息子か。チクショ…ウ’
カエールは心の中からつぶやいて、少し考えている様子だったが、やがて口を開いた。
「もしカイノンで処罰されたとしたら、どうしますか?」
ロザリオ・ベニチは怒りを覚えているようだった。落ち着いて話を続けようとする彼の声には
すでに殺気が帯びていた。
「息子がカイノンでハーフエルフたちとつるんでいたとしても、
彼は厳密にヴィア・マレア所属のエルフです。
何の権限でその罪を問われるというのですか?」
「人を殺したとしてもですか?」
「ベルナスがそんなことをするはずがありません!息子に会わせてください!」
「申し訳ございませんが、息子さんのペルナス・ベニチはカイノンで4名のハーフエルフの女性を殺害しました。
しかも一番祝福される結婚式で新婦を殺しました」
「あり得ない!誰かの計略です!今すぐ息子に会わせてください!」
「大変残念なことですが、カイノンの法律により、ペルナス・ベニチとその友人は殺人罪で処刑されました」
すぐ追いついてきたセルフはさっきまで冷たかったカエールだが、
ヘベットを保護するためにエルフたちが殺害されたわけではなく、
法律により処罰されたとうそをついていることが分かった。
息子がもう死んだというカエールの説明にロザリオ・ベニチは怒りを抑えられなくなった。
「誰だ!誰が、私の息子を!誰か早く出てこい!」
「俺がしました」
集まっている人が振り向いてみたら、淡々な表情で立っているヘベットがいた。
「あなたの息子は俺の婚約者を殺しました。しかも俺の目の前で。
それで俺の手で直接あなたの息子を殺しました。
処刑される前に俺が殺したので、他のハーフエルフとは関係ないことです」
「お…お前が、俺の息子を!殺す!」
狂気に満ちたロザリオがヘベットに向かってワンドを振るうところを見ていたカエールはすばやく弓に矢を定めた。
全てが一瞬のことだった。
稲妻のような光がヘベットを襲った。ヘベットは悲鳴を上げて倒れてしまった。
集まっていたハーフエルフたちが驚いて悲鳴をあげて散らばってしまった。
ロザリオはもうすでに狂っているようだった。
彼の目にはハーフエルフ全員が犯人に見えるらしく、
ヘベットの後ろに立っていたセルフにまでワンドを振るおうとした。
その瞬間、カエールの弓から放れた矢がロザリオの額に射された。
ロザリオの体が地面に崩れていくのを目にしたエルフ警備兵は、急いでワンドを取り出し、
ハーフエルフを攻撃しようとした。
しかし、魔法キャストが終わる前にカエールは5本の矢を射した。
正確なカエールの矢は、エルフ警備兵に当たっていた。
ロザリオを保護していた警備兵全員が倒れてしまった。
カエールと周りの人々は、すでに彼らが死んだと思った。
「ヒヒーン!」
しかし、警備兵の中の一人が胸に矢が刺さったまま、ユニコーンに乗って走り出した。
気が付いた時には既に遠くなっていた。
戦争が始まってしまったのである。