「フロイオン・アルコンがイグニスに戻ったそうですが、本当ですか?」
ジャドルの声には驚きが含まれていた。彼女の前に座っている男性は頷きながら答えた。
「はい、私がこの目で確認しました。アルコン邸に行けば、確認できると思います。
今、自分を支持する勢力を集めています」
「ふ〜む。かわいいフロンがやっと動きだしたのですね」
「また面白いこともあります」
「面白いこと?」
男性はより低い声で、まるでささやくように話した。
「フロイオン・アルコンが恋に落ちていました」
「ほぉ〜興味ある話ですね。相手の女性は誰ですか?」
「ジュリエット・エリアルという女性です。彼女の父親、ドミニク・エリアル伯爵は青炎の魔法ギルドの代表です」
「あ〜彼女なら知っています。紫と緑の瞳のきれいな女性でした。
以前、パーティーで挨拶した事があります。
ふ〜む。フロイオン・アルコンがジュリエット・エリアルに惚れた…」
「いかがですか?ジュリエット・エリアルを利用すると、フロイオン・アルコンを縛れると思いますが」
ジャドルは微笑みながら話した。
「公爵はまだ恋というものについてわかっておりませんね?」
「何故…ですか?」
「人間というものは…恋愛が深くなればなるほど、相手のささいな変化に揺れるものなのです。
また恋愛が一番きれいに咲いているところには、相手の眼差し一つでも喜びと哀しみを感じてしまうのです。
まだ早いです。フロイオン・アルコンを二度と立ち直れないようにするとしたら、
彼の心が燃え上がり、熱くなれるよう、私達が手伝いましょう」
「フロイオン・アルコンとジュリエット・エリアルの愛情が一番深くなった時に彼を倒すということですか?」
「その通りです。しかし私が直接入り込むのは難しい。そこで公爵の出番です」
「分かりました。何でも命じてください。国王陛下のためなら何でもやります」
「二人を親密にするには、やはりもっと頻繁に会えないと。
公爵は二人がもっとよく会える場を作ってください。
また隣で相手にもっと積極的になれるように煽ってくださいね」
「分かりました。しばらくは二人の間を祝福するように動きましょう」
その時、侍女が入ってきて、ジャドル・ラフドモンにささやいた。
「公爵、私はここで失礼します。また」
「はい。では、また」
ジャドルは部屋から出て、国王が待っている部屋に向かった。
ジャドルは自分も知らないうちに微笑んでいた。
‘恋か…恋というものは一時の情熱に過ぎないけが…恋以上に人を中毒にさせるものもない’
ジャドルは自分の人生の中には恋というものは存在しないと思っていた。
人々は彼女が国王の愛人と言っているが、彼女自身は一度も国王に恋を感じたことはない。
ジャドルがカノス・リオナンのそばにいるのは、彼が国王であるからだ。
絶対権力の国王の愛人になることは、誰より強力な権力の持ち主になることを意味する。
‘カノスも私を愛しているわけではない。彼が誰かと恋に落ちることは想像できない。
彼が私の言うことを聞いてくれるのも、ただ私が彼を楽しませているからだ。
それ以上でも以下でもない’
彼女が部屋に入ると、カノス・リオナンは白い猫をなでていた。
ジャドルは、赤いシルク製の扇子を持ち、ゆっくりと彼に近づいた。
彼女はドレスを軽く握り広げながら、優雅に挨拶をした。
「お呼びでしたか、陛下」
カノス・リオナンは無表情のまま、彼女を手招いた。
ジャドルも静かに彼のそばに座った。
カノスは何かに怒っているように彼女を強く抱きしめ、キスをした。
「陛下…」
「静かに。今あまり気が気ではない」
ジャドルはカノスが好きなようにするように静かに身を任せた。
今のカノスに逆らうと彼の機嫌がもっと悪くなるだけ。
「先ほど王妃の部屋に寄った」
彼が静かに話し始めた。
「子供が出来たそうだ…」