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第十章 狂気を運ぶ暴雨 第10話 10.08.11


 

 

縛られたまま連合軍が持ってきた鉄格子の車に閉じ込められ、エルス港まで運ばれた。

カエールは臨時監獄に送られた。

カエールの監獄を警備する兵士は、ヴェーナまで連れて行く兵士が着くまで

臨時監獄で過ごすと説明してくれた。

エルス港の臨時監獄での初日に、エルス港連合軍の総司令官という人物が監獄を視察していた。

カエールの監獄を警備している兵士達は、総司令官が帰ってからカエールに話しかけた。

 

「先ほどここを視察した方が連合軍の総司令官で、デル・ラゴスで満場一致で選ばれた方だ。

ゼラード・ダートン子爵はみんなから尊敬されている。本当に素晴らしい方だ」

 

ゼラード…ダートン?

 

「おい、総司令官の名前がどうした?」

 

「ゼラード・ダートン子爵だ。何だ?知り合いか?」

 

「あ…いや。何でもない」

 

カエールの心臓が激しく動き始めた。

父親とこのように出会えるとは思いもしなかった。

いつも父親のことを忘れようとしていたから、彼を見るカエールの心は複雑だった。

総司令官のゼラード・ダートンは毎日のように監獄に立ち寄り、兵士達を励ました。

彼が来るとカエールは監獄の隅の陰に体を隠したまま、彼の姿を観察した。

紅葉のような茶色の髪の毛に、茶色の瞳。ゼラード・ダートン子爵はいつも低くて暖かい声で兵士達に

声をかけていた。誰が聞いているか気にせずにしゃべってくれる兵士のお陰でいろいろな情報を得た。

ダートン子爵が若い頃、女性に人気が高かったのにもかかわらず、いまだに独身だとか

弓の腕が優れているとか…

忘れようとしていた父親の姿を見ながらカエールは自分も知らず彼を待つようになった。

ある日、いつものように地下監獄を廻っていたゼラード・ダートンがカエールの監獄の前で足を止めた。

彼は監獄の中を除き見て、警備している兵士に聞いた。

 

「彼はハーフエルフか?」

 

「はい、そうです。カイノンでエルフを5名殺害したそうです。」

 

「そうか」

 

うなずいていたゼラード・ダートン子爵は少し迷う様子だったが、警備兵に自分を中に入らせるように命令した。

カエールの胸の鼓動が激しくなった。

やがてダートン子爵が中に入り、入口近くにある小さい椅子に腰を下ろした。

闇中に座っているカエールに声をかけた。

 

「名前は何だ?」

 

「か…カザン」

 

「カザン…独特な名前だな」

 

二人の間には奇妙な沈黙が漂った。沈黙を破ったのはゼラード・ダートンの声だった。

 

「実は俺にはハーフエルフの子供が一人いるんだ。もしかして二人かも知れない。

最後に見たのが生まれる前だったから、双子だったら、二人かも…

とにかく俺は若い頃、美しいエルフの女性と恋に落ちた。子供も出来た…

俺には幸せな家庭を作る自身があったが、彼女はそうではなかったようだ…

ある日突然姿を消してしまった。別れの言葉すらなく…

彼女を探してあちこち廻ったが、彼女を探し出すことは出来なかった。今でも会いたい…

もしかして君、ダートンという名字のハーフエルフと会ったことはないか?」

 

カエールは少し迷ったが、会ったことがあると答えた。

ゼラード・ダートンは驚いた様子で興奮した声で聞いた。

 

「男か、女か?名前は?」

 

「男性で、名前はカエール・ダートンでした」

 

「カエール・ダートン…カエール・ダートン…息子がカイノンにいたのか。

それで、彼はどうだった?彼女に似ているならきれいだろう?」

 

「そうです。彼はハンサムでした。茶色と金髪が混ざっていて、子爵のような茶色の瞳でした」

 

「俺と同じ茶色の瞳…」

 

いつの間にかゼラード・ダートン子爵の声には涙が混ざっていた。

 

「その子は…カエールは、結婚はしたのか?」

 

「まだ結婚はしていませんが、アリエという美しいフィアンセがいました。来年の春に結婚する予定だそうです」

 

「そうか…もう結婚する歳になったのか。弓はどうか?うまく使えるのか?」

 

「カエールは、ピル傭兵団の死神と呼ばれていました。多分弓の腕が優れているからだと思います」

 

「はははは。血は水より濃いものだ。俺の息子だ。ハーフエルフの中でも最高の実力を持っているはずだ」

 

楽しいそうに笑っている父親の姿を目の前にしながら、カエールは自分がカエールだと言いたくなった。

しかし、罪人の姿で父親に出会うのはプライドが許せなかった。

 

「もしかして…カエールの母親とも出会ったことがあるのか?」

 

カエールは少し迷ったが、答えた。

 

「いいえ。しかし…聞いた話では、カエールの母親は一生父親のことを懐かしがっていたそうです」

 

ゼラード・ダートン子爵の目から涙が一粒落ちるのをみながらカエールは胸が泣くような苦痛を感じた。

 

「そうか…」

 

総司令官は椅子から立ち上がり、お礼を言った。

 

「お陰で長い間胸を痛ませていた話が出来た。ありがとう。今日ヴェーナから着た軍と話が終わった。

明日の朝にはヴェーナに向かって出発するだろう。

どうか君が無事にカイノンに戻れるようにと祈っている」

 

  

   

第10章11話もお楽しみに!
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