聖なる光に満ちた場所に立っている人々はずいぶん疲れているように見えた。
しかし、お互いに対する信頼感が彼らを支えているのが何故か伝わってきた。
ずっとありがとうと言いたかったわ。今がチャンスですね。
私を信じて一緒に来てくれて本当にありがとう。
遅くならなくてよかった…
誰かの声が耳でなく、胸の奥に聞こえてきた。
光に向かい立っている人々は、背中しか見えなかったが暖かく微笑んでいることが何故か分かった。
「キッシュさん!しっかりしてください!!キッシュさん!」
キッシュは耳の辺りを叩かれている感覚と誰かが呼んでいる声で目が覚めた。
ハエムがこわばった顔で自分の顔を見ながら叫んでいた。
頭に酷い痛みを感じながらキッシュは体を起こした。
「どう…したんですか…?」
「こちらが聞きたいところです。話したいことがあって部屋に入りましたが、
一人の侍女が短剣を持っているのが目に入りました。
取り急ぎ短剣が首まで至らないうちに止めることができましたが…一体何が起こっているのでしょう?」
キッシュが周りをみわたすと、自分を殺そうとした侍女が意識を失い、床に倒れていた。
「死にましたか?」
「いいえ。ちょっと気を失っただけです。しかし一体何があったんですか?」
「彼女がお茶を持ってきました。多分お茶に薬が入っていたようですね。
お茶を飲んだ後意識がだんだん遠のいてゆく中で、彼女が襲ってくるのをみました…」
「そのタイミングだったんですね。無事で良かったです。しかし、彼女は何故キッシュさんを…」
キッシュは自分を殺そうとした彼女の目が普通ではなかったことを思い出した。
「多分…だれかが彼女を操っていたのだと思います。目が何らかに惚れているようで…普通ではなかったです」
ハエムは眉毛をしかめて、床に倒れている侍女に近づき、彼女の目を開き、瞳を確認した。
「なるほど…瞳が曇っていますね。意識を操られていると思います。あ!これは…」
ハエムが何かを見つけたようで、キッシュも近づいた。
「何かありましたか?」
「この文字について知っていますか?」
ハエムは侍女の首の後ろに刻まれている模様を示しながら言った。
キッシュは首を横に振った。
「これは悪魔の魔法で使われる文字です。悪魔の魔法はよく知られていないが
私には悪魔の魔法に夢中になった友人がいて、少しはわかります。
体に悪魔の文字を入れ、人を操る方法は悪魔の手法の中でも一番大きな特徴です」
「誰かが俺の命を狙っているのは確実ですね」
キッシュは後味悪そうに言った。ハエムは侍女から奪った短剣を引き出した。
「まさか、侍女を殺すつもりですか?」
「心配しないでください。悪魔の魔法を破ろうとしています。
このままにしておくと侍女は目が覚めてからも同じく行動しますので、
刻まれている文字を変更しなければなりません」
ハエムは短剣の先で彼女の後ろ首に刻まれている文字を半分に切った。
少しにじみ出た赤い血が文字の真ん中に線を描いた。その時侍女の意識が戻ったようだった。
彼女は自分が長老と国王の後継者の前に横になっていたことに驚き、膝をつき無礼について容赦を求めた。
ハエムは彼女を見下ろしながら厳しい声で話した。
「質問に正直に答えれば、今回の件については秘密にしよう」
「答えられることは何でも答えます」
床に体をくっつけるようにうつぶせになっていた彼女は恐怖で震えていた。
「お前がこの部屋に入って何をしたか覚えているのか?」
「分かりません。私は何も覚えていません。どうかお許しを…」
「記憶にないってことか?」
「その通りです。いつの間にか意識を失い、目が覚めたらここでした。どうかお許しを…」
侍女はより下を向きながら叫ぶように容赦を求めた。
「なら、最後に覚えているのは何だ?」
「カルバラ大長老のお呼びで部屋に入りましたが…その後のことを覚えていません…」
ハエムとキッシュの目が当った。キッシュは少し震える声で彼女に聞いた。
「カルバラ大長老が貴女をお呼びになったということですか?」
「はい、その通りです」