「バナビさん!バナビさん!早く来てください!」
1階で食事の準備をしていたバナビはアリエの呼び出しに、自分が待っていたことが叶えられたことが分かった。
予想通り長い間意識を失っていたゾナトの意識が戻っていた。
「ゾナト…」
「バナビ、心配かけてすまなかった。何よりあなたが無事でよかった…」
「これからそんな危ないことはしないでください。ゾナト、私…あなたと二度と会えなくなったかと…」
それ以上話を続けられず、バナビは泣き始めた。
隣でその光景を見ていたアリエも少し驚いた様子だった。
鉄の女性だと思っていたバナビが涙を流すなんて!
ゾナトが倒れた後、カエールやセルフに冷静に指示を出していた彼女だったが、
ゾナトの意識が戻ったことが分かってか初めて涙を流しているのだ。
「あなたを残して一人で行くわけないだろうが。もう泣かないで。アリエも驚いたじゃないか」
アリエは手を振りながら話した。
「いいえ、私のことは気にしないでください。
軍長の意識が戻って本当に良かったです」
「お陰さま。妻の面倒を見てくれてありがとう。それより、カエールはどこだ?」
カエールの名前を聞いたアリエはいきなりのどが詰まったように言葉が出なかった。
バナビは今までのことをゾナトに説明した。
ゾナトが倒れた後、捕まえた3名のエルフたちと、
監獄に閉じ込められていたエルフたちを殺害したヘベット、
エルフたちを探しにきたアルマナ荘園の領主、
やむを得ず彼らを殺し、エルス港連合軍に送還されたカエールのことを。
自分の意識がない間に起こったさまざまなことを聞いたゾナトを深くため息をはいた。
「不幸が不幸を呼んできたか…」
「カエールはジャイアント支援軍が届けば、我々もエルフたちに自分の解放を要求できるといいました」
潤った目でアリエが話した。
「そう。そうなるのなら、それ以上のことはないだろう。
それよりエルス港連合軍が来たと言ったか?ならエルス港でヴィア・マレアの軍隊にカエールを渡すだろう。
その間はエルス港の監獄にいるのか…もしかして、彼と出会うかも知れないな」
「誰のことですか?」
「カエールから何の話も聞いてないのか?まあ、彼のことを憎んでいたから、彼がエルス港にいることを
知らなかったかも知らない。カエールの父親は、エルス港連合軍の総司令官だ」
アリエは驚いて何も言葉が出なかった。
「犯人になって自分を捕まえた軍人として出会うなんて…もしかしてカエールの運命かも知れない。
アリエ、心配しないで。きっとカエールは無事にカイノンに戻るだろう」