迫ってくるオークたちに向かセシリアが叫んだ。
「防御陣を立て直そう!防御陣を!」
セシリアの命令に従い、聖騎士たちは崩れた城壁の隙間に迫ってくるオークたちを攻撃した。
聖騎士たちは絶えず目の前に現れるオークたちを倒していったが、オークの数は減らなかった。
聖騎士たちが崩れた城壁の穴に集中している隙を狙い、オークたちは城壁を乗り越え
住民たちを攻撃し始めた。あちこちに火がつき、人々は聖騎士たちが作った防御陣の中に集まった。
奇跡がない限り、オークを退治するどころか、全滅の危機が迫っていた。
聖騎士たちは住民を保護しながら、オークに立ち向かっていた。
その時、遠くからラッパの音が聞こえてきた。支援軍が到着した合図だった。
城の中で防衛に終始していた聖騎士たちと住民は最後の勇気と力をふりしぼった。
城の中に入っていたオークたちを外に追い出し、魔法で住民たちを保護しながら城の外に逃げた。
外にいたのはデル・ラゴスの騎士とエルフ達だった。外に出た住民を安全な場所に移動させた後
合流したエルフとヒューマンたちは力を合わせてオークを攻撃し始めた。
2時間後、あたりはオークの死体ばかりになった。
安全な場所に身を避けていた住民たちは歓声をあげながら勝利を喜んだ。
エドウィンはアルマナ荘園の壊れた姿を見ながら、二度と回復が出来ないであろうことがわかった。
ほとんどが燃え崩れ、死んだ人があちこちに見える、既に死んだ都市であった。
聖騎士たちはアルマナ住民を連れ、デル・ラゴスに向かった。
トリアンもエドウィンと一緒にデル・ラゴスに戻った。
住民たちと一緒だったので、帰り道はもっと長く感じられた。
夜にも休まず歩き続けて、朝日が昇る頃にはデル・ラゴスの国境線に着くことができた。
国境線には、聖騎士団の団長とアインホルン大神殿の大司祭が彼らを待っていた。
聖騎士の団長は両手を広げて歓迎の言葉を述べた。
「ご苦労様。国王陛下が褒章をくださった。聖騎士たちは隊列を整えろ!
大司祭が一人一人に神の祝福と国王陛下の褒賞を伝達する予定である」
「国王陛下万歳!」
万歳を叫びながら聖騎士たちは馬から下りて隊列を整えた。
大司祭は聖騎士の首にメダルをかけながら、神の祝福を祈った。
最後にエドウィンの順になった。
大司祭がエドウィンの首にメダルをかけながら、神の祝福を祈り始めた。
「ロハ神の言葉で君の祝福を祈る」
いきなりエドウィンが後ろに下がりながら話した。
「神からの栄光は断ります」
皆が驚いてエドウィンを振り向いた。大司祭は慌てながら聞いた。
「何故なのか」
「もう神は存在しないと思っているからです」
「なんだと?」
大司祭の隣に立っていた聖騎士団長が怒鳴りだした。
人々のなかで騒ぎの声があがった。
もっと何かを話そうとしている団長を大司祭が止めた。
「そなたがそう思っている理由が知りたい」
「神は我々を愛し保護する存在です。しかし、いつからか神は我々から目をそらしています。
目をそらしている神は既に存在しないことと違いがないと思います」
「そうか。よくわかった。そなたの意思は国王陛下に伝えるようにする」
それは一種の脅迫である。神を否定する聖騎士の話を聞いた国王の反応は目に見えるものだった。
‘俺は多分罷免されるだろう…’
エドウィンが大司祭の前で神を拒否した話はデル・ラゴス全域に広まった。
皆、エドウィンが狂ってしまったと噂をした。
何人かは心の中で同意している者もいたが、表には出さなかった。
大司祭からエドウィンの話を聞いた国王は怒りを覚えた。
神への心を基本とする聖騎士が神の存在を否定することは有り得ない。
数日にわたる会議の後、エドウィンの処罰が決まった。
エドウィンは聖騎士の任を罷免し、監獄に閉じ込める。彼に死が訪れるまで…
またエドウィンの逮捕命令は、グレイアム伯爵にくだされた。