‘結局父親と呼べなかったな’
ヴェーナに向かう檻の中でカエールは一人でつぶやきながら苦笑いを浮かべた。
一つだけ得たものがあるとすれば、母親から聞いていた話と違い父親は母親と自分を見捨てて
いなかったということだけだ。
お陰で、カエールは長い間胸の奥に積っていた父親への憎しみを払うことが出来た。
「アルマナ荘園は無事かな」
檻の横を歩いていたエルフの兵士が仲間に話す声が聞こえてきた。
「気になるね。何でいきなりオークたちが暴れはじめたのか。そのせいで今遠回りしているし」
「エルフの支援軍も行っているしデル・ラゴスからもっと多くの支援部隊が行っているという噂だから、
まあ、問題はないだろう」
その時、カエールの耳に遠くから大地が鳴り響く音が聞こえてきた。
カエールは急いで音が聞こえてくる方向を確認した。
ハーフエルフであるカエールの目には、音の原因となるオークたちの群れが見えた。
「早く逃げろ!オークたちがむかってくる!」
カエールがエルフの兵士達に声をかけた。しかし、エルフの兵士達は回りを振り向いているだけだった。
「何言っているんだ!なんにも見えないぞ!」
「信じてくれ!北東からオークの群れが近づいてきている!」
「バカな嘘はつくな…」
カエールの話をまったく信じてくれなかった。何人かは面倒くさいというような表情で見ていた。
オークの群れはだんだん近づいてきていた。カエールは檻を倒す為に体をぶつけ、檻が音を立てながら揺れ始めた。
「おい!お前!やめろ!」
怒った表情で一人のエルフ兵士がワンドをカエールに向けた瞬間、
風を切る音と同時に矢が胸を貫通した。
残りのエルフ達もようやくカエールの話が事実だとわかった。
カエールはもう一度思いっきり檻に体をぶつけた。ようやく檻が左側に倒れ、丘の下へ転がり始めた。
くるくる回る檻の中でカエールは気を失ってしまった。