「まあ、アルメネスの復活にはデカン族全員の命が必要ですので、
今、犠牲になっている者達だけが特にかわいそうなわけでもありません」
「もちろん。アルメネスの復活の前では、それは問題にならないだろう?
キッシュも死に、ドビアンが国王になれるはず。その次は簡単じゃ」
「急いだ方がいいと思います。もう魔法の水の中毒になっているため、後3回が限界です。
3回以上飲むと中毒で全身が麻痺され死んでしまいます。
ドビアンが死ぬ前にアルメネスを復活させようとしたら、残された時間はあまり長くありません」
これ以上我慢できなかった。キッシュはドアを壊すように中に入った。
キッシュの姿にカルバラ大長老とアドハルマという魔法師は驚いた様子だった。
「…き…君がなぜ…」
カルバラ大長老は隣にいたアドハルマを睨みながら叫んだ。
「いったいどういうことだ!まだ生きているじゃないか!悪魔の文字の力は保証できると言っただろう?
しかもここには誰も入れないといったじゃないか!」
アドハルマはあっけない顔でつぶやいた。
「ここは…俺の結界で仕切られているはず…どうやって第3者が…有り得ない…」
「カルバラ大長老。私を暗殺するため、罪のない侍女に呪いをかけたことについて抗議する為にきました。
彼方達の話を聞く前まで、彼方に静かにアルメネスから離れるようお願いをするつもりでした」
剣を引き出すキッシュの目は怒りに満ちていた。
「しかし彼方達の話を聞きながら分かりました。彼方達の罪は処罰だけで流させるには余りにも深いことを…」
「生意気だ!国王の後継者だとはいえ、大長老の私を脅かすつもりか!」
「脅しですか?」
キッシュの声は低くなっていた。
「脅しというのは彼方みたいな卑怯者のやることでしょう。私は脅しなんかはしません。
私は決めたら、行動します」
「何?私を殺すとでも言っているのか?」
「はい、その通りです。私の友達の為に、国王陛下のために、デカンの未来の為」
「なんだと!」
カルバラ大長老が杖を振るうと、炎の球体が現れキッシュに向かって飛んだ。
キッシュは剣で炎を振り払い、大長老に立ち向かった。大長老の杖とキッシュの剣がぶつかった。
「苦しまず殺してやろうとしたのに、自ら墓を探してきたのか!アドハルマ!こいつを片付けろ!」
「了解」
アドハルマの声が部屋中に広がり、黒い霧のようなものがキッシュの周りで大きくなっていた。
霧はまるで生き物のようにキッシュにだんだん近づいていった。
「ぐぅっ!」
骨が折れる音がしながら、キッシュが苦しい悲鳴を上げ、手に握っていた剣まで落としてしまった。
カルバラ大長老は傲慢な声で笑いながら話をした。
「自分の力も分からず妄想に入り込んでいるからこういう目に遭うのだ。
中毒になっている間におとなしく死んでいればよかったものを。ふふふ」
「くぅつ!妄想にさらわれているのは大長老、あなただ!デカン族を犠牲にしアルメネスを復活させると?
過去の栄光にとらわれている彼方のせいでデカン族は滅亡するだろう!」
キッシュは血を吐いてしまった。
「ふっ!デカン族はドラゴンで生まれ変わるのだ!さあ、別れの時間だ。
アルメネスが復活できれば、ドビアンも彼方のそばに送ってやろう。心配するな。寂しがらなくてもよい!死ね!」
キッシュの頭の隅にドビアンの顔が浮かんだ。
いつも自分を信頼してくれたドビアンの顔と自分を殺そうとした侍女の顔が重なった。
悪魔に呪われた親友の顔に、死んだナルシの顔も重なった。
自分の手で殺すしかなかった最愛だったナルシのことを思い出すと
体の奥側から怒りが湧き上がり始めた。
「うあああああ!」
いきなりキッシュの体から強力な光が噴出され始めた。
キッシュを囲んでいた黒い霧は光に破り始まった。
光に満ちたキッシュは大きく悲鳴が上げ、カルバラ大長老は驚いてアドハルマに叫んだ。
「な…なんだ!アドハルマ!早くあいつを殺せ!」
しかし、アドハルマは怯えた顔でキッシュを見ていたが、やがてその場で消えてしまった。
大長老はアドハルマが自分を裏切ったことがわかった。
キッシュに向かい杖を振るったが、大長老の杖はキッシュの体にぶつかり重い音を立てた。
その瞬間、キッシュの体から光が消え、キッシュの体は前へ倒れた。
大長老は自分の攻撃でキッシュが倒れたと思い、とどめをさすために炎で攻撃した。
キッシュの体に炎がぶつかると思った瞬間、キッシュの短剣が大長老の胸に刺された。