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第四章 隠された真実 第12話 08.12.03
 
「ラウケ神団?ロハン大陸を滅亡させようとするのが神だと言い張る奴らか?
彼らがここまで来たのか?」

リオナがエミルと彼の仲間たちがラウケ神団だというとカエールが驚いたように反問する。

「カエール、彼らに会ったことあるの?」

うんざりした顔でカエールが答える。

「彼らはどこへ行っても会える。
種族に関係なく信じあえるというのが信徒を多く集められる長所ではあるが、
俺からしてみれば最近いろいろと大陸の様子がおかしいから、
あんな宗教にはまる奴らが増えるんじゃないかと思うね」

「僕はラウケ神団という名は聞いたことがありますが、実際会ったことはありません。
ロハン大陸を滅亡させようとするのが神だって…
一体どういう話ですか?」

エドウィンはトリアン牧場近くの宿で人々の話を聞いて
ラウケ神団という名前は聞いたことがある。
そしてタスカーは自分の息子がラウケ神団だと言っていた。
だが、彼らの言う「神々がロハン大陸を滅亡させようとする」という主張に関して
詳しくは知らなかった。
彼らも自分と同じく降臨した神を見たことがあるのだろうか。
その神もまたロハンの種族たちをモンスターにしたのだろうか。
グラット要塞での惨劇がエドウィンの目の前に浮かぶ。
胸に大きな穴が空いたヴィックトル・ブレン男爵と仲間のハウト。
自分が切ってしまったハウトの腕がなおも自分の肩を握っているような気がした。

「そんなに興味がある話ではなかったので詳しくは知らないけど、
私が聞いた話ではラウケ神団はヘルラックの書いた本を元にした宗教集団ということと、
エリシャという教祖がいて、その人が神の真実を人々に知らせるために
ラウケ神団を作ったって」

「神々の真実?」

「神々が私たちに背を向けて、私たちを憎み、
その憎しみでロハン大陸を滅亡させようとするのが神の真実だと言っていたわ」

「何の証拠でそれが真実だと言っていました?」

「さあ… 彼らはただヘルラックの本というものに、
書かれていたので信じているみたいだったの」

「この状況そのものが証拠じゃないのかね?」

黙々とリオナとエドウィンの話を聞いていたカエールが割り込む。

「どういう意味ですか?」

「俺は神そのものを信じるわけではないが、ラウケ信徒たちが主張するのが事実なら、
モンスターがこれだけ出現しているのに神が何の助けもしてくれないという現実が、
彼らの主張の根拠ではないかということだ」

カエールの言葉にリオナは自分に問うように静かに呟く。

「神はなんで私たちを憎むのだろうね?」

カエールが分からないというように肩をそびやかす。

「ヘルラックっていったいどんな人で、なぜ神が私たちを憎むといったのだろう…」

「ヘルラックはヒューマンの歴史に在る預言者でした」

エドウィンからの予想できなかった答えを聞いたリオナはびっくりした。

「ヘルラックを知っているの?」

「ええ、彼はデル・ラゴス第3代国王であったクラウト・デル=ラゴスの親友であり臣でした」

「でもなんでラウケ神団に関しては知らなかったの?」

「彼は自分の兄を殺して王になった人。
結局、甥と義姉が率いた軍に敗れ、デル・ラゴスから追い出されました。
その時ヘルラックも共にデル・ラゴスから去ったと聞きました。
反逆者であり、デル・ラゴスからも忘れられた存在です」

エドウィンはリオナにヘルラックとクラウトに関して説明をしながら、
ふとダンという種族を思い出した。
タスカーはダンとヒューマンが同じ始祖を持っているといったけど、
それはクラウトとヘルラックのことだったのだろうか。
考えてみればありえない話ではなかった。
ただ、その当時には各国家の境界はドラゴンが守っていた。
彼らはどうやってそんな遠くまで行けたのだろう。

それもまたヘルラックが鍵かも知れないと思いつつ、
エドウィンはアインホルンに帰ったらすぐヘルラックに関して調べようと決心した。
自分がグラット要塞でみたのが本当の神なのか、
ラウケ神団の言うとおりなぜ神がロハンの種族を憎み、
どのようなことが行われているのかが知りたかった。

首都の大神殿で聖騎士になるための訓練と授業を受けながら、神への信仰は深くなった。
しかし聖騎士として役割を果たすためグラット要塞に派遣された途端、
彼の信念を根本からぐらつかせる事件が起こり、エドウィンは苦しんだ。
想像も出来なかったことが目の前で繰り広げられ、そのことが何を意味するのかの確認も出来ず、
疑いだけが膨らむ。本当の神の真実に近づかないと、この苦しみは消えないような気がした。

「考えれば考えるほど理解ができないけどさ、
なんでラウケの子供たちが襲われたのだろうね」

カエールの質問に考え込んでいたエドウィンが顔を上げる。

「分かんないことばかりなんだ。
あの暗殺者の奴らはなんなんだ、なんであいつらがそのダークエルフを狙っていたのか、
なんであのダークエルフはそこにいたのか…」

「ダークエルフがハーフリングの地を通るのがそんなにおかしいですか?
隣国だから普通にあることだと思いますが…」

エドウィンの質問にカエールが皮肉るように答える。

「聖騎士殿はそんなことも知らんのかね?
首都の神殿に引き篭もって、この世がどうなっているのかはさっぱりのようだな」

「そんなふうに言わないの、カエール。
他国の事情は知らない場合もあるのよ」

エドウィンの表情が硬くなるのをみたリオナがカエールを叱った。

「ハーフリングとダークエルフはとても仲が悪いのよ。
できるだけぶつからないようしているから、ダークエルフがハーフリングの地を通るのは
よくあることではないの」

「何かあったんですか?」

「数え切れないほどあったのよ!
ダークエルフの貴族どもは根本から腐ったやつらばかりなんだ」

突然の荒い言葉に後ろを振り向くと、宿の女将が近づき、テーブルに皿を下ろしてきた。

「ビッキーおばさん…」

リオナは慌てた顔をしたが、ビッキーと呼ばれた宿の女将は
ダークエルフの事を思い出すことだけでもむかついてしょうがないと言いながら、
興奮した口調で語り始めた。

「ダークエルフ達はうちらハーフリングを無視するのよ。
彼らと会って話しをしてみると、まるで自分たちの下僕に命令でも下すよう・・・
言葉だけではないわ。商人から仕入れるときにもそうなのよ。
リマには良い宝石が採れる山が多くて、うちらはその宝石を加工し、
美しいアクセサリーを作って売っているわ。
もっとも近いのがイグニスだから、多くの客がダークエルフね。
お金持ちの貴族さんたちは自分が欲するスタイルの物を作ってくれと注文もする。
で、言われたとおり作ってもってゆくと、文句をつけて、値段をありえないくらいまで
下げてしまうわ。
投売りでもできたらそれはまだ良いわ。物だけ貰って金は払わない奴らも多いのよ。」

テーブルから皿が全部下ろされた後も続くようだった女将の言葉は、
殺到する客の注文によって中断されてしまった。
自分の前のスプーンを持ち上げながらリオナが補足した。

「ビッキーおばさんのお父さんが、首都のランベックで
結構大きい店を営んだ宝石職人だったって。
幼いころからああいうダークエルフのお客さんを結構見ていたらしいわ。
ビッキーさんの言うとおりダークエルフがハーフリングを見下しているのもあるんだけど、
もっとも大きな問題は国境地域の国王親衛部隊なの。
武装した軍人が国境に立っているのも不安だし、知らないうちに国境線を変えながら
少しずつ領土を奪っているのよ。
何度も長老たちがダークエルフの国王に抗議したんだけど聞くフリだけしてるって。
で、一部の街からはダークエルフを追い出したこともあるの。
それ以後、ダークエルフとハーフリングは、影ではお互い爪を研ぎあっているわ」

「おかげ様で、俺らが多く雇われているしな」

パンにバターを塗りながらカエールが言う。

「ヴィア・マレアやデル・ラゴスから離れようとしたハーフエルフたちが
カイノンに集まって都市を建てたのはいいけど、経済的にはまだ不安定でね。
それでハーフリングに雇われて傭兵として働きながら稼ぐのが俺らの主な収入源なんだよ。
ハーフエルフの中には、ヒューマンの言葉とエルフの言葉、両方が使えるということで
両国を往来しながら商売している奴もいる。
お前も聞いた事あるだろう?バーガンディーのビール。
アインホルンでは結構有名じゃないか?」

「バーガンディーのビールはアインホルンだけでなく、デル・ラゴス全地域で有名です」

カエールの話を聞きながらエドウィンは各国が相当深い関係であることを知り、
自分が井の中の蛙のようだと思った。
自分が知っているのは神ロハとデル・ラゴス、そして騎士道が全てだった。
今更ながら遠くまで旅立とうとしたことが良かったと思う。
いつの間にか夜空の月は空の真ん中に掛けられていた。
第13話もお楽しみに!
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