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第五章 レクイエム 第1話 09.01.14
 
青空からの暖かな日差しが大地を照らす。
穏やかな風が草原を走って波紋を描き、
木の枝にとまった小鳥たちは幸せのようにさえずっている。
大きなケヤキの下で十数人のハーフエルフたちが集まり、
愛で結ばれた二人の男女を祝福する。

「ベディールとリーラの結婚を祝って、乾杯!」

ジョッキを高く持ち上げたプリモの音頭に
新郎と新婦を囲んでいた他のハーフエルフたちも乾杯の声を上げながら
自分たちのジョッキを交わした。
あちこちでガラスがぶつかり合う音が鳴り、どんどん飲み干していく。
ベディールとリーラが幸せに満ちた顔でキスすると周りから笑い声混ざりの歓声が上がった。
もう一回ビールが回り、祝いの乾杯をすると、
誰かが「ウェディングヴェールの翼をやる順番だ」と叫んだ。

ハーフエルフは神を信じないため、特に決められた結婚式の手順というのは無かった。
親しい友人や家族が集まって、結婚する二人を祝福しながら
お酒と食べ物を分けて食べるのが彼らの結婚式だった。
最後に新婦が被っていたウェディングヴェールを風に飛ばし、
新郎の方がそれを取ることで結婚式は終る。
これが「ウェディングヴェールの翼」である。

新婦のリーラを除いて結婚式の出席者たちは新郎のベディールと共に
風が吹く方向へ離れて立った。
リーラはいい風が吹いてくる時まで待っていて、手に取っていたウェディングヴェールを離した。
まるで羽で出来ているようにウェディングヴェールはゆらゆらと風に乗って舞い飛ぶ。
ベディールはウェディングヴェールを追って、高く飛ばされる前に掴み取った。
ウェディングヴェールをベディールの手で捕まえると、人々の歓声が森に響く。
ベディールは笑顔でリーラに向けてウェディングヴェールを振った。
しかしリーラは後ろを向いたまま何の反応も見せない。

新婦からもっとも近くにいたアリエがリーラに近づいた。
アリエの手がリーラの肩に触れた瞬間、リーラの身体が後ろに倒れた。
短い静寂の後に恐怖に満ちた悲鳴がベディールの耳を襲った。
倒れた新婦の身体から流れ出た血が純白のドレスを真っ赤に染めていく。
ベディールはリーラに駆け寄った。
さっきまで愛しい瞳で自分を見つめていたリーラは、すでに帰らぬ人となっていた。
ベディールの悲痛な叫びは森に響き渡った。



カイノンの体表であるゾナト・ロータスはセルフの話を聞いて段々表情が固まる。

「これで三回目だ。
亡くなった花嫁は、皆結婚式の途中で、腹部を貫かれていた。
これは計画的に行われている事件なんだ」

興奮したセルフの声はどんどん高くなっていった。
ゾナト・ロータスは短くため息をして静かに話す。

「だが、新婦が魔法にやられたということだけでエルフの仕業だというのは、
おかしくないか?」

「エルフ‘たち`の仕業なのよ」

アリエは部屋に入りながら言った。
アリエの手にはまだ乾いてない血痕が残っていた。
衝撃を受けた顔でゾナト・ロータスが椅子から飛び起きる。

「また新婦が…?」

「リーラがやられたわ。
街に戻って知ったことだけど、今日死んだ新婦はリーラだけじゃないわね」

「メイが死んだ。
今ヘーベットは正気じゃない」

アリエにハンカチを渡しながらセルフが答えた。
アリエは手に付いた血を拭いながらセルフの隣に座る。

「私はバンシーの呪いだと思ったわ。
でもベディールとリーラの結婚式を行ったところにはバンシーなどいなかった」

「疫病でもない!死んだ花嫁たちは皆健康だった!
リーラも今朝会ったときには何の問題もなかったんだ!
これはあのエルフの仕業なんだよ!」

「しかし証拠がない」

証拠が無いというゾナト・ロータスの言葉にセルフが怒りの声を上げながら
椅子から立ち上がる。

「お前はエルフの味方なのか?!」

アリエがセルフの腕を引き、椅子に座らせた。

「セルフ、落ち着いて、証拠がないと言っただけだわ。
エルフに肩入れしたわけじゃないのよ」

セルフは息巻きながらゾナト・ロータスを睨みつける。
ゾナトはセルフから目を逸らさず見つめながら、落ち着いた声で話した。

「私も高潔なふりをしているエルフ達の仕業だと思う。
だが、証拠が無い故に一方的にシルラ・マヨルに謝れとは言えないのだ。
下手をするとエルフに言いがかりを付けている様に思われるかも知れない。
もし奴らの狙いがそれだとしたら私達は奴らの思惑通りに踊らされている馬鹿にしかなれん。
私達に比べてエルフ達はその数があまりにも多い。
しかもエルフは、いつもヒューマンと行動を共にしている。
猫かぶりが出来ないよう、全てが確実に整った上で押し付けなければならない。
それが、私達がカイノンで自由になれる唯一の道だから」

カイノンの代表らしいゾナトの落ち着いた口調にセルフは気を静めたが、
まだ彼の声には不満が混じっていた。

「で、どうすると言うんだ?奴らは魔法使いだぞ?」

「囮で罠をつくる」

「偽の結婚式を行うってことね?」

ゾナトの言葉の意味を察知したアリエが質問した。
ゾナトは頷いて説明する。

「奴らがどうやって結婚式の情報を聞き、新婦を殺すのかは分からぬが
私は誰かがエルフ達に情報を流しているのではないかと思っている。
私達がそれを逆に利用しようということだ。
結婚式の噂が奴らの耳に入れば必ず新婦を殺しに来るはずだ」

「来なかったら?」

セルフが不安な目で聞く。

「来るようにする。
奴らが目を光らせるくらいの結婚式じゃないとな」

「まさか…」

ゾナト・ロータスの考えを読んだアリエは顔を横に振りながら反対した。

「私は絶対反対よ、ゾナト。
危険すぎるわ」

「こうするしかない。
これ以上犠牲者を増やすわけにはいかん」

「二人とも何の話をしているんだ?」

セルフが理解できないという顔でゾナトとアリエを見つめる。

「ゾナトは今、自分の結婚式を囮にしようとしているのよ」

「なんだって?」

セルフはようやくアリエが強く反対する理由が分かった。
ゾナト・ロータスと言えばハーフエルフを根絶しようとする敵が
最も倒したい対象だった。
ゾナトがハーフエルフたちの街であるカイノンを建てた人物であり、
彼らの代表であることも標的の対象となる理由ではあるが、
なによりゾナトがハーフエルフたちの精神的な支えであるということが
一番大きい理由だった。
ヴィア・マレアの伝統保守派から見ると、ゾナトは目の敵でしかない。

「お前、正気か?
奴らは花嫁でなくお前を殺そうとするはずだ!」

「私が犠牲になっても、被害を食い止められるのならやるしかない」

「お前が死んだらカイノンのハーフエルフはどうすればいいんだよ?!」

ゾナトはセルフの肩をたたいて、力を込めた声で話した。

「ハーフエルフは強い。
私がいなくなってもカイノンは絶対崩れない」
第2話もお楽しみに!
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