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第四章 隠された真実 第16話 - 2 08.12.31
 
「ある男の人が、あなたを暗殺者から守ろうとしてそうなってしまったわ」

慌てたフロイオンの顔をみたタスカーが説明した。

「ある男の人・・・?」

「誰なのは分からないわ。目の前から消えてしまったの」

「私の命の恩人は貴方がた以外にもいたのですね」

タスカーは頷いて当時の状況を説明した。
彼女の説明がちょうど終わるころには宿の前に着いていた。

「もしその方にお会いできましたら、
私が本当に感謝していると伝えてくださいませんか?」

「もちろんよ。私もあの人に助けられたもの。
また会えると良いけどね…」

タスカーは昨日の夜に見た男の顔を思い出した。
ハーフリングというには結構背が高かった彼は、
炎を思わせる赤い髪と赤い瞳の持ち主だった。
赤い瞳のハーフリングは見たことがなく、ヒューマンかも知れないと思いながら
タスカーはエドウィンとフロイオンを追って宿に入る。
彼女たちが中へ入ると、ガヤガヤと騒がしい宿が急に静かになった。
フロイオンは自分のせいで空気が変わったと気づき、後ずさりしながら宿から出ようとした。

「ランチでキノコシチューを注文したい人は急いで!
今日はキノコがあまり無いわよ!」

宿の女将であるビッキーの大声に宿がいつものように騒がしくなる。
キノコシチューを注文しようとして、いつの間にか人々の頭の中から
ダークエルフのことは消えてしまったようだ。
フロイオンはビッキーに目配せして礼を言うと、
ビッキーはフロイオンにウインクして台所に消えた。
タスカーが窓側の空いていたテーブルに座り、フロイオンとエドウィンを呼び寄せた。

「ここの女将のビッキーさんが作るキノコシチューはこの辺りでは有名なのよ。
そのキノコシチューを食べたくてランベックからくる人もいるんですって。
私も先日食べてみたけど、本当に最高だったわ」

タスカーは先ほどの出来事を忘れさせようと明るい声で話した。

「ありがとうございます」

フロイオンはタスカーに礼を言って、窓の外を眺めた。
窓の外には笑いながら遊んでいるハーフリングたちの子供たちがいた。
腹違いの兄であるカノス・リオナンは、ハーフリングの地を欲していた。
常に火山が爆発し、溶岩が流れる黒い地に比べてみれば、
ハーフリングの草原はまさに天国のようだった。
それにイグニスと比べてみると、リマに埋蔵されている資源は
誰だって欲しがるくらいに豊かだった。
リマの資源を手に入れるものが、
ロハン大陸にてもっとも大きな軍事力の持ち主になれると言った兄の言葉も一理あると思った。
ヒューマンもその理由でハーフリングとの交流を活発にしているのではないか。
フロイオンはこっそりとエドウィンを見つめた。
エドウィンはタスカーと何かをまじめに話していた。

「エミルの葬式が終わったら、アインホルンに戻ろうと思っています」

「エミル?」

フロイオンがエドウィンに聞く。

「エミルをご存知ですか?」

「ええ、この方のお子さんの名前がエミルですが…」

エドウィンはタスカーを示しながら答えた。
フロイオンの目頭が熱くなる。

「タスカーさん… 私は何と申し上げればいいでしょうか…
私はタスカーさんの息子さんにも助けていただきました。
暗殺者たちに追われ、傷を負って飢えながら森を彷徨っていたとき、
タスカーさんの息子さんに助けられました。
なのに…それが…」

フロイオンはそれ以上何も言えなかった。
今まで自分のために大勢の人が命を失った。
しかし、エミルは自分と偶然出会っただけで命を失ってしまったので、
エミルの死に対するフロイオンが感じる責任は重かった。
タスカーは向かい側に座っているフロイオンの手をそっと握る。

「エミルの死にあなたが苦しむ必要はないわ。
それがあの子の運命だったのよ。
あなたが無事だったことを知ったら、きっとあの子も喜ぶはずよ」

その夜、エミルを含む死んだラウケ信徒たちの葬式が深い森の中で行われた。
ハーフリングの葬式では風の女神シルバに捧げる祈りが終わると、
森の中に死体が入っている棺をそのまま放置して帰る。
ハーフリングたちは野生動物に食われることで死者の魂が自由になると信じていた。
死んだ信徒たちの中にはハーフリングではない、他の種族もいたが、
ハーフリングの葬式で行う事にした。

鳥の巣のように木の枝で組み上げた棺が森の中に置かれ、
人々は綺麗にして新しい服を着せた死体を棺に入れた。
葬式のため、隣の町から来た長老がハーフリング語で祈りを捧げる。

風の女神よ
ハーフリングの創造主であるシルバよ
ここで貴方の創造物たちが
貴方のお呼びに従い
空高く魂を捧げます

風の女神シルバに捧げる長い祈りが詠じられている時、
フロイオンは神など存在しないと思っていた。
神が存在しているとしたら、自分に優しくしてくれた子供たちが死ぬはずが無かった。
彼が知っていたことが真実であれば、
神は暗殺者から子供たちを助けるべきだった。
弱者を守り、悪人に罰を下すため神は存在する。
しかし、神の慈悲を求めた子供たちは自分の目の前で死んでしまった。
フロイオンはもはや神など信じまいと思った。
生き残るため神に祈ることなど、二度としないと誓った。
まず自分を殺そうとした勢力について確実に把握しておく必要があった。
もう彼らから逃げず、先手を打って、彼らが自分を殺せないようにしたいと思った。
フロイオンは自分を殺そうとしたのが誰なのか調べるため、
グスタフの家にいる暗殺者が意識を取り戻すまでプリアの町に留まろうと決めた。

葬式の翌日、エドウィンはタスカーやフロイオン、他のプリアの町の人たちに別れを告げた。
エドウィンは、後でタスカーに会いにハーフリングの首都ランベックを訪ねる約束して、
アインホルンに向って発った。
第5章1話もお楽しみに!
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