エドウィンは司書に感謝の言葉を述べ、図書館を後にした。 着いたころには、青色だった空もいつの間にか赤く染められている。 図書館をでたエドウィンがふと後ろを振り向いて図書館を眺めた。 石灰岩の雄々しい建物が夕焼けの色を浮かべている。
国立王室図書館は5代国王ダンカン・デル=ラゴスが残した 唯一な業績の産物である。 彼は非常に感性的な人物だった。 王妃シィルラが王女トリキアを生んで死んだ後、 彼は王女を女王に育てることに自分の生涯を捧げた。 他の王族や臣たちは国王に新しい妃を娶り、王子を産むよう訴えたが 彼はいつも断るばかりだった。 王女が玉座に座れると考えた彼は、トリキア王女に帝王学を学ばせた。 国立王室図書館が建てられた理由もトリキア王女が 常に学問を接することができるようにするためだった。
そんな熱情的な父性愛の結果、 トリキア王女は信仰の守護者と呼ばれる 最初の女王トリキア・シィルラ・デル=ラゴスとして デル・ラゴスの第6代国王に就く。 ドリキア・シィルラ・デル=ラゴスはアインホルンの神殿を増築して大神殿にし、 辺境の民も常に信仰を身につけられるよう国内のあらゆる場所に 小規模神殿を建たせた。 また、神学者を養成するためトリキア神学校を建て、 現在の宗教学の基盤を築き上げられるよう 神学者の研究に支援を惜しまなかった。 今デル・ラゴスでもっとも名誉なる地位だと言える聖騎士もまた 彼女の治下で作られたものである。 それ以外にも聖君とも呼べる数多くの業績を残したものの、 デル・ラゴスの民はトリキア・シィルラ・デル=ラゴスを聖君とは思わなかった。
それは彼女の過激な宗教改革のためである。
トリキア・シィルラ・デル=ラゴスが王座に就く前までは ヒューマンにとってもっとも重要な神は主神オンとエドネだった。 ヒューマンの創造神であるロハはヒューマンにとって 主神の御子という意味しか持たなかった。 それにより、デル・ラゴスからは主神への祈りの声が高く 主神オンとエドネがロハよりも芸術の素材として扱われた。 トリキア・シゥルラ・デル=ラゴスが王位を継いで 主神オンとエドネより下位神であったロハを中心とする 宗教改革案を発表した時、多くの人々は強く反発した。 しかし女王はビクともせず、強く自分の意思を押し付けながら 宗教改革に反対するものは、たとえ王族や貴族であれ、 反逆者として処罰すると宣言した。 彼女は亡くなる日まで宗教改革に反対するものに対して 強硬な態度を堅持した。 だが信仰はどんな壁の前でも信じるものの意思の前では崩れてしまう。 人々は女王の宗教弾圧から避け、アインホルン付近の洞窟に隠れて 主神オンとエドネに祈りを捧げた。 およそ100年を維持してきたこの洞窟内の宗教は 突然現れたモンスターに信徒たちが襲われてから終わりを告ぐ。
トリキア・シゥルラ・デル=ラゴスが特に宗教改革に集中したことに関して 一部の歴史学者たちは女王が自分の立地を強化するための道具として 宗教を選択したからだと説明している。 最初の女王だと無視されないため彼女は、玉座に座ることになってまもなく 強く改革を押し付けたのであり、主神オンとエドネの代わりに 下位神であるロハを中心としたのは彼女の父であり先王であった ダンカン・デル=ラゴスの影から抜け出るまでだったと歴史家たちは解析した。
彼らの解析が真実なのかどうかは分からないが 本当にトリキア・シィルラ・デル=ラゴスが先王の影から脱するため 宗教改革を行ったのであれば、それは半分しか成功してなかった改革だった。 トリキア・シィルラ・デル=ラゴスが残した数々の業績より 王妃シィルラに向かうダンカン・デル=ラゴスの切ない恋物語が 人口に膾炙され、より多くの芸術作品として表現されたからである。
段々赤くなる夕焼けで図書館は大きな薔薇が満開したように見えてきた。 王妃シィルラが薔薇が好きだったということまで考えて ダンカン・デル=ラゴスが図書館を建てたかどうかまでは分からないが 王妃に対する彼の愛情を考えてみると十分ありえる話だった。
`一生一人だけを愛して生きていくということは 確か容易なことではないだろう… それだけに相手を愛していたということだからな…
きっとダンカン・デル=ラゴスは国王だったからではなく、 それだけ愛した人がいたことから、皆羨ましがっているのだろうね。 たとえ悲しい別れを迎えたとしても、 そんな愛を経験したということこそ神の祝福というものじゃないかな。 俺にもそんな愛が訪ねてくるだろうか…`
エドウィンは思わずセンチメンタルに流されている自分に気づき、 自分の心を誰かにばれてしまわないよう、急いで足を運んだ。
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