ゾナトがハーフエルフたちを連れて、捨てられたデル・ラゴスの領土に
住み着いたのはヒューマン暦284年の事だった。
彼らは自分達の中心地を‘カイノン’と呼ぶようになったが、
それは古代ロハン語で‘解放’という意味だった。
ハーフエルフたちがカイノンを建立したという噂は全大陸に広まり、
あちこちに離れ離れになっていたハーフエルフたちが
同族を探すためにカイノンへと集結し始めた。
デル・ラゴスはこういったハーフエルフたちの動きに警戒し、
彼らを監視するためにカルバラン監視所を作った。
デル・ラゴスは辺境の村を守るという名目で監視所を作ったと発表をし、
カイノンのハーフエルフたちもそれに関してはあまり気にしていないようだった。
しかし、ヒューマンとハーフエルフの間には目に見えない微妙な溝が生じ始めていて、
そういった溝は埋まることなくどんどん深くなり、やがて爆発寸前にまで至った。
結局、デル・ラゴスがカイノンに対して税金を払うよう
通達したのを皮切りに、ハーフエルフたちの怒りが爆発した。
ゾナト・ロータスは憤慨するハーフエルフたちと共にアインホルンに行き、
王城の前の広場に家を立て始めた。あわてたデル・ラゴスは急いで
緊急会議を開いて税金の話をなかった事にするとハーフエルフたちをなだめた。
ハーフエルフたちの自主性を認めるという言葉を聞いてから、
やっとゾナト・ロータスはハーフエルフたちを連れてカイノンに戻った。
しかし、ゾナト・ロータスはヒューマン達をこれ以上信用できないと思った。
もう二度とデル・ラゴスから自分たちが見くびられないように
育てる必要があると思い、体系的な軍事訓練を始めた。
この時、ハーフエルフたちに目を光らせていたハーフリングの方から、
ハーフエルフたちを傭兵として雇いたいと提案があった。
当時、あまり仕事のなかったハーフエルフたちにとって契約傭兵はよだれが出る提案だった。
ほとんどのハーフエルフたちがこの提案に快く同意して、
数ヵ月後には多くのハーフエルフたちがハーフリングの傭兵として雇われリマに向かった。
ハーフリングたちに軍事的な力がなかったわけではないが、
生まれながら戦闘を好まなかったハーフリング達は、
北方のジャイアントと南方のダークエルフから脅威にさらされていた。
特に南方のダークエルフたちは、イグニスとリマの中立地域で大々的な軍事訓練を行って、
国境近くのハーフリングたちを不安にさせた。
そんな中、ハーフエルフがカイノンを建てたという話を聞いたハーフリングたちは、
どの勢力にも属していないハーフエルフたちを傭兵として雇用することで、
ダークエルフとジャイアントからヒューマンとエルフと手を結ぶという
言いがかりをつけられなくなるだけではなく、
ダークエルフやジャイアントの侵略に対応できると判断した。
カイノンで快くハーフリングたちの傭兵提案を受け入れると、
ハーフリング達はさっそくハーフエルフのアーチャーたちを雇用し、辺境にある村を守ってもらった。
当時、ハーフエルフたちが使っていた武器は木で作られた弓だった。
これをみたハーフリングたちは、ハーフエルフの武器を強化してあげる方法を考え始めた。
その結果、金属と宝石を使ったたくさんの弓が誕生した。
一番大きい発明品は石弓だった。
弓よりもっと強い攻撃力を持った石弓はエレナと言うハーフリングの手によって製作された。
生まれつきに好奇心が強く、創造力が高いハーフリングの中には特に発明家が多かった。
その中でも、歴史的に一番有名な発明家は
松コケ部族の第2代大長老になったトナンスだった。
彼は自然を利用した発明品を多く作ったが、一番有名なのは風車だった。
自然を破壊せず、ありのままを利用した風車は自然と共存することを
重要に思うハーフリングたちの価値観とよく合っていた。
エレナはトナンスの子孫で、トナンスに次ぐ発明品を作りだした。
自然をありのまま活用したトナンスとは違い、
エレナは自然を模して多くの物を作りだした。
その中でも、一番有名なものは‘ブンブン’という機会人形だった。
人が中に入って動く巨大な機械人形は、地下での採掘作業でよく使われた。
道をふさぐ巨大な岩を壊して、土を運ぶなどエレナが発明した
この機械人形は人の力ではできない仕事をやってくれた。
その後、エレナが発明したのが弓の攻撃力を強化した石弓だった。
エレナは石弓を作るために直接カイノンを訪れて生活しながら、
ハーフエルフたちが使用する弓の研究を重ねた。
1年ぐらいが経った頃、ハーフリングたちに石弓をお目見えさせることができた。
ゾナト・ロータスは彼女に感謝し、カイノンでの研究が
更に頑張れるように支援を続けると提案した。
多くのハーフエルフたちがエレナから石弓の製作法を学んだ以後も、
彼女はカイノンにとどまる事になった。
生まれながら快活で明朗なハーフリングと、
反抗的で個人主義のハーフエルフたちは簡単に仲良くなることはなかったけれど、
カイノンで長年暮らしながらエレナはハーフエルフたちとの間に深い友情を生む事ができた。
時々、ハーフエルフたちからの頼み事を聞いてあげていたエレナに
ゾナト・ロータスはある頼みごとをした。
しかし、彼の頼みを聞いた瞬間、エレナは尋常ではない計画が
進められているということに気がついた。
「魔法を防げる鎧?」
エレナの問い返しにゾナト・ロータスが首を縦に振った。
「完璧に防ぐことが出来なくても…
ハーフリングには魔法攻撃を弱化させる鎧を作る技術があると聞きました」
「はい、確かにあります。‘ゼロス’と呼ばれる物ですけど、
ダークエルフたちがいつ攻めてくるか分からないから私たちハーフリングとしては、
かなり重要なものです。しかし、軍長がなんで‘ゼロス’を…」
「うむ…私ではなくヴェーナに行く使節がいまして…
ご存知の通りエルフの中には私達を嫌う人たちが多いものですから、
念のため着ていったほうがよさそうで」
エレナはゾナト・ロータスをじっと見つめてからしばらく考え込んでいた。
「作ってくれますか?」
「作るのは難しくないんですが…
‘ゼロス’は珍しい材料がたくさん必要ですから。
材料さえそろえば1日で作れます」
「必要な材料は教えてもらえれば、コヘンが集めて来るはずです。
知っているとは思いますけどコヘンは全大陸を相手に商売をしている貿易商人ですから」
「分かりました。急用なようなのでさっそく今から準備を始めましょう」
ゾナト・ロータスはエレナに礼を言ってエレナの発明室を出た。
エレナはゾナト・ロータスが出てから書斎に入り、本を読み漁り始めた。
魔法を弱化させる鎧‘ゼロス’はハーフリングたちにとっては秘密兵器みないな物だった。
本当なら、いくらハーフエルフの軍長の要求だとしても‘ゼロス’を作ることは断るべきだった。
しかし、ハーフエルフたちの近くにいながら彼らが
ヒューマンとエルフたちにどれほど軽んじられてきたか分かるようになり、
最近結婚式で死んでいったハーフエルフの新婦たちに対する
彼らの怒りがよく分かったので、軍長の頼みを断るわけにはいかなかった。
そして、エレナもハーフエルフの新婦が殺されたことには怒りを感じていたので、
軍長がどんな計画を立てているかは分からなくても、
死んだ新婦の霊魂を慰めるのに少しでも役に立つのであれば喜んで手伝ってあげたかった。
「あった…‘ゼロス’の作り方」
エルナはほこりが溜まっている厚い本を手にすると、
机の上に広げてから紙に必要な材料のレシピを書き写し始めた。
20種類を超える材料の名前をすべて書き写した後、
紙に書かれたレシピを読みながらエレナはコヘンが果たして
この材料をいつ全部そろえ終えるのかと思い始めた。
子供の頃、おじいさんはエレナに誕生日プレゼントで‘ゼロス’を
作ってあげると言った事があるけど、
結局、‘ゼロス’を直接プレゼントされたのはその翌年の誕生日だった。
‘ゼロス’の材料の珍しさがエレナを1年も待たせてしまったのだ。