女神シルバがハーフリングを創造した時にはまだ、ハーフリングには国家という概念がなかった。
彼らは自由を求める放浪の民族だった。
それぞれ主に活動する地域によって特徴を持っている4つの部族に分かれていった。
ジャイアントの領土と近い、エスカ川の上流にはキノコが繁殖していた。
同然、彼らはキノコに興味を持ち、キノコの栽培をしながらキノコの効能やキノコの料理に詳しくなった。
彼らは月見キノコ部族と呼ばれた。
エスカ川の下流は真珠海岸と呼ばれた。その下にはうっそうとした松の森があった。
森に住んでいたハーフリングたちは、木材を利用した様々なものを発明した。
また松の森に繁殖する多様な植物を利用した薬草学に詳しくなった。
彼らは松コケ部族と呼ばれた。
松コケ森の南には眉毛ミミズクの丘があって、そこに住んでいるハーフリングは、
ミミズクを飼いならすことに優れていた。飼いならしたミミズクを利用して遠い所と連絡を取ることができた。
その付近には白い眉毛のミミズクが多かったので、ハーフリングたちはミミズク部族と呼んだ。
最後に一番南のほうに住んでいたのが、銀角シカ部族だった。
彼らは他のハーフリングとは大きく違う点があった。彼らは召喚獣を操ることができた。
召喚獣と契約を結ぶ儀式が広く知られていたわけではないが、まるで童話のような伝説はあった。
昔、銀角シカ族にはドゥリンという少女がいた。
子供の頃、事故で目が見えなくなったドゥリンの唯一の友達は一頭のシカだった。
彼女はほとんどの時間をシカと一緒に過しながら友情を育んでいた。
ある日、自分の唯一の友達が死に、シカの寿命がハーフリングに比べて短いことを知った。
彼女はシカのために真剣な気持ちで祈りを捧げた。
自分の命をあげてもいいので、シカを助けてくださいとシルバにお祈りした。
これを聞いたシルバは主神オンに頼んで、少女の願いを叶えたいと言った。
シルバの話とドゥリンの心からの祈りに感動した主神オンはドゥリンの前に現れ、
シカにドゥリンの命を分け与えれば、二人は一緒になれると説明してくれた。
ドゥリンは迷わず頷いた。主神オンはシカとドゥリンに召喚の契約儀式を教えてあげた。
それが、銀角シカ部族が召喚獣と契約を結べるようになった始まりといわれている。
互いの存在を知ってはいたが、国家にならず、それぞれ部族を代表する長老を選出し、
長老の指示の下で秩序を守ってきたが、シルバの指示によって、
64年に初めて各部族の長老が集まって大長老を選出し、
国家として一つになり始めた。最初の大長老は眉毛ミミズク族の長老であったボグダンだった。
彼はリマを国家名にし、当時一番多くのハーフリング集落だったランベックを首都と発表した。
各部族の文化が混ざり合い、ランベックはハーフリングの特徴を色濃く反映した都市として発展した。
科学的と自然が調和した都市がハーフリングたちの自慢であった。
それぞれの部族村で生活する人も少なくはなかったが、
ランベックにはいろんなハーフリングが集まるためいつも賑わう街であった。
しばらくして、ランベックで長老の会議が開かれた。
新しい大長老が選出されると祝福の儀式を行う‘巨大な知恵の木’
ハーフリングの創造神である女神シルバの司祭が教育を受ける‘風の翼’
そして、情報収集委員会の研究所などがあった。
松コケ部族の技術が結集した首都の建物を見るたび、エレナは発明家である自分が好きになった。
久々に帰ってきたランベックは変わっていた。
建物は建築技術の発達でよりきれいで、より丈夫に、同時に自然と調和を深めていた。
エレナは心の底ではここを懐かしがっていたことに気がつき、自然と目頭が熱くなった。
しかし、今は過去を振り向く暇がない。感傷にひたるのは後にしなくてはならない。
ハーフリングたちに衝撃的な事実を早く知らせるのが何より急ぎだ。
暗くなった空の下に大きな木の形をしている‘巨大な知恵の木’に向かい急いで足を運んだ。
長老たちは会議がある日以外にはそれぞれが自分の村で生活をしているが、
大長老は‘巨大な知恵の木’で過している。
もう夜中になっているが、どうか大長老がまだ寝ていないように願いながら、急いで行った。
エレナは走るようにしたので、‘巨大な知恵の木’に着いた頃には息が荒くなっていた。
最初、警備兵に用件を話した時、あまりにも息が荒かったのでわからなかったので、
彼らはエレナが何を言っているのかわからなかった。
エレナはやっと息を整えて話をした。
「大長老に緊急で話すことがあります!」
いきなり大きな声を出す彼女に警備兵たちは驚いて答えた。
「大長老は…お休み中ですが…」
「なら、起こしてください!ハーフリングの未来がかかっているものです!」
しょうがないと思ったのか、警備兵が聞いた。
「連絡はしますが…どなた様だとお伝えしましょうか?」
「エレナです」
エレナの名前を聞いた警備兵は驚いたように聞いた。
「トナンス大長老の子孫であるエレナさん?」
「エレナさんは昔カイノンに行きましたが…?」
エレナは短くため息を吐いて答えた。
「はい、私がトナンス大長老の子孫であるエレナです。ただいまカイノンから帰ってきました。
急ぎなので早く大長老に案内してください」
警備兵は慌てて中に入り、エレナを応接室に案内した。
しかし、エレナは聞こえなかったふりをしながら、彼らの後ろを追って大長老の寝室に入った。
大長老の寝室の前で止まっている警備兵に早く連絡するように促した。
警備兵は静かにドアを叩いた。中からは何の反応もなかった。
「深く眠りに落ちているようですが…」
エレナは怒った顔でドアを強く叩きながら大きな声を出した。
「大長老!大長老!急用です!」
警備兵は驚いた表情でエレナから離れて、奥の様子を見ていた。
寝室のドアが開く音がし、ドアの中から大長老が現れた。
大長老は優しい表情を保てるようにしていたが、夜中邪魔されて機嫌が悪いのははっきりとわかった。
「どなたですか?」
大長老の機嫌などお構いなしに、エレナは正々堂々言った。
「カイノンから帰ってきたエレナです」
大長老が‘エレナ’という名前に反応し、目を大きくした。
「エレナ?トナンス大長老の子孫である、エレナが帰ってきたのか?」
「はい、そうです。急用がありまして、夜中にもかかわらずお邪魔しました。申し訳ございません」
「いや。カイノンからこの夜中に帰ってきてまっすぐここにきたのは、きっと深刻な用件があるからだろう。
夜中でも起きるのは当たり前。早く中に入って」
エレナは軽く挨拶をし、大長老の寝室に入った。
大長老はベッド脇においてある小さいテーブルにコップを準備し、お湯を沸かし始めた。
「さあ、どうぞ」
「ありがとうございます」
エレナは大長老が指差した椅子に座った。お湯が沸いてくるのを待ちながら大長老はエレナを観察した。
「長い時間が経ったのに、昔のままのようだ」
「いいえ、そんなことはありません。私も年を取りました」
ペチカに載せておいたやかんから蒸気が出た。
エレナのコップにお湯を注ぎながら大長老が聞いた。
「お前をここまで急がせた理由はなんだろう」
「ベロベロ長老が亡くなりました」
大長老はあぜんとした表情で再度聞いた。
「みんな知っていることじゃないか?ベロベロ長老がリマから出発してから一ヶ月後、
ダークエルフの警備兵が彼の遺体を見つけたと、連絡が届いたじゃないか。
お前も既に知っていると思うが…」
「実は違います」
エレナが大きい声を出したので、お湯を注いでいた大長老の手は驚きで止まった。
「ダークエルフの警備兵は森の奥でモンスターにやられたベロベロ長老の遺体を見つけたといいましたが、
事実ではありません。彼らはベロベロ長老がイグニスに着く前にモンスターの攻撃を受けたようだと
報告しましたが、ベロベロ長老はモントの地下監獄に閉じ込められていたんです!」
「何?いったい何を言っているのか!」
エレナは胸の所に保管していた巻物を引き出して、大長老に渡した。
そして怒りを帯びた声で話を続けた。
「ベロベロ長老の遺言です」